引き続き、橘さんがパッティングに入った。でもその次打ったボールもカップ近くで、空しく止まった。続けて残り十センチぐらいのボールをカップへねじ込むと自分のボールをカップから取り上げ、何もいわずに一人で次のティーグランドへ向けて歩いていってしまった。
「やっぱり、俺が悪かったんですかね?」
と俺は吉川さんに聞いた。
「うーん、今のは、加納さんが相当悪いね・・でも初めてのゴルフなんだから、橘さんも大人気ないと言ったら大人気ないけどね」
久保田さんは俺たちの会話を聞きながら、何も言わずにパッティングに入った。そんな事、意にも介していないようだ。パッティングだけに集中してボールを打った。カップまで三メートルぐらいの距離を残していたボールは、緩やかなフックラインを描き、カップの中に吸い込まれていった。彼女は自分で「わー、ナイスショット」と言って飛び上がって喜んでいた。続いて吉川さんもパッティングにはいった。そのボールも一回目で入った。そしてなんと俺のボールも、一回目で入ってしまった。バーディーである。
「わー、すごい。ナイスバーディーだわ」
「本当すごいな。初めてのゴルフでバーディー取るなんて」
二人とも自分の事のように喜んでくれた。三人とも先ほどの橘さんと俺との出来事など、もう忘れていた。三人とも一発目でパッティングが入った事に対して満足していた。三人が談笑しながら、次のティーグランドへ歩いていくと、橘さんはタバコを吹かせながら、俺たちを睨んでいた。
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