Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第29回

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 次のアウト二番ホールはパー三、打ち下ろしのショートホールである。ショットを打つ順番は先ほどと一緒だった。一番最初に吉川さんがティーショットを打った。ボールの勢いは力強かったが、フックがかかりすぎて、グリーン左のバンカーの中へ入っていった。続いて、橘さんがティーショットに入った。橘さんの打球は高い弾道を描き、グリーン奥にナイスオンした。その打球を見て、皆、「ナイスショット」と言った。次は俺の打順だったが、俺はこのショートホールを何番アイアンで打てばいいのか、判らなかったので、橘さんに、
「何番アイアンで打たれたのですか?」
と聞いてみた。すると橘さんは、
「加納君、他のプレイヤーに何番アイアンで打つか聞くと、二ペナルティーだよ」
と言った。快く教えてくれると思っていただけに、ムカッときた。そんな俺の気持ちが判ったのか、吉川さんが側に来て、「百五十ヤードの打ちおろしだから、七番アイアンぐらいでいいんじゃない」と小声で教えてくれた。吉川さんから言われたとおり、七番アイアンを手に取り、ティーショットを打った。体の起き上がりが早かったせいか、打球は、今回もトップ気味の低い弾道で飛んでいった。そしてボールは、グリーン手前、五メートルぐらいの所に一旦落ちた。しかしそこから勢いをつけて転がり、グリーンを一揆に駆け上がっていった。グリーンに乗ると、ボールはピンに向って、どんどん近づいていく。そしてピン手前、二メートルぐらいのところで止まった。丁度ピンを挟んで、橘さんのボールと一直線上にあった。でも俺のボールの方がピンに近かった。またもやラッキーなショットだった。結果オーライである。
 吉川さんと、久保田さんが「ナイスショット」と言ってくれた。橘さんは苦笑しながら黙っていた。俺は「なんて心の狭い人だ」と思ったが、ワンオンして気持ちがよかったので、それ以上、橘さんの事は気にしないようにした。ただプレイに集中するのみだ。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第30回

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 最後に赤マークから久保田さんが、ティーショットを打った。赤マークは白マークより二十ヤードぐらい手前から打つので、実質、百二十ヤードぐらいしか距離がないに違いない。彼女が何番アイアンで打ったかは判らないが、またもやダフったみたいだ。ボールは、グリーン手前のエッジで止まった。どうやらアイアンショットが苦手なのかもしれない。彼女も含めて全員ティーショットを打ち終わると、俺と久保田さんは二人でグリーンまで移動した。吉川さんは、パターとサンドウエッジを手に取り、走ってバンカーに向っている。橘さんは一人でパターを持って急斜面を下り降りていった。カート道を久保田さんと一緒に下りながら、
「また、少しダフっちゃいましたね」
と話しかけた。彼女は、にこっと笑いながら、
「実は私、アイアンとパターが苦手なんです」
と言った。
「やっぱり、俺もそうじゃないかと思ってましたよ」
「まあ、加納さんって、思ったことをはっきり言われるんですね」
彼女は、そう言った後、俺の方をいたずらっぽい目で見た。でも少しも怒ったような素振りがない。そんな表情を見て彼女は少々の事には拘らない竹を割ったような性格だなと思った。それに話をする時に、笑顔を絶やさない所がいい。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第31回

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 俺たちが雑談をしながら、グリーンに着くと、吉川さんはバンカーの中で、今まさにバンカーショットを打とうとしていた。吉川さんのボールが入ったバンカーは、先ほど俺のボールが入ったバンカーと違い、グリーン方向にむけて土手が一メートルぐらい高くなっている。俺はこんな顎の高いバンカーからどうやってボールを脱出させるのか、興味津々と眺めた。しかし一回目は、ちょっとだけそのバンカーの顎を駆け上り、また元の位置に戻ってきた。吉川さんは二回目は渾身の力を込めて振りぬいた。ボールはホームランだった。グリーンをはるかにオーバーし、向こう岸の土手に突き刺さった。彼は俺たちの方を見て、頭を掻きながら苦笑いした。それからバンカー内の砂を綺麗に均そうととんぼを手にすると、久保田さんが、
「吉ちゃん、私がバンカー均しておくから、寄せのショット打ってきて」
と言って、吉川さんのゴルフバックから持ってきた、アプローチウエッジとピッチングウエッジを二本手渡した。彼はお礼を言うと、ボールが飛んでいった土手に向って小走りに急いで行った。そしてアプローチウエッジだけを手に取り、ピン方向を見て構えた。体は相当前の方に傾いている。見た目にも、かなりの急傾斜である事が判った。吉川さんはそのアプローチウエッジでパターみたいに振りぬいた。ボールは力なく土手の下まで転がり落ちた。でもその結果が判っていたらしく、すぐにその土手を駆け下り、同じくアプローチウエッジでグリーンまでボールを寄せた。ボールはピン右手前、二メートルの所で止まった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第32回

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続いて久保田さんがアプローチショットに入った。俺はその間に、自分のボールとピンまでのラインを真剣に確かめる事にした。このショットが入れば、バーディーだ。ボールの後ろから腰を降ろして食い入るようにピンの方を見る。そのうちに久保田さんはアプローチショットを済ませたみたいだ。でも俺は自分のパットラインに集中していてその事すら気づかなかった。すると今度は橘さんがパットを打つ為に構えた。橘さんのボールは俺のラインの真正面であった為、自分のパットラインだけを確認していた俺でも橘さんの姿が確認できた。再び中山の言葉が俺の頭の中をよぎる。
「相手がパッティングに入ったら、どこに居ようと動くな!」
俺はこれ以上、橘さんの気分を害したら本当に怒ってしまうと思い、そのかがんだ姿勢のまま、じっとしていた。すると逆に立花さんから注意を受けた。
「俺のパットラインから移動してくれないかな?」
「えー、俺、動いていいんですか?」
「当たり前じゃないか。早く動けよ」
立ち上がり、右側の方へ二歩移動した。
「橘さん、この辺でいいですか?」
橘さんは手でもっと右側へ行けと合図している。もう一歩右側へ移動した。
「俺はあんたに俺の目の前から消えてほしいんだよ」
今度はかなり強い口調だった。真剣に怒っているみたいだ。急いで橘さんの真後ろへ移動した。久保田さんが俺の方を見て、くすっと笑っている。俺も久保田さんの方を見て、舌をぺろっと出した。それから息音も立てないぐらい静かに橘さんの方を見守った。橘さんは、一回パットラインから体をはずし、深呼吸をした。そして気を取り直してもう一回構えなおした。再び、ピン方向と自分のボールの位置を何回も確認している。それから自分のボールをじっと見つめ、パターを打ち出した。パターは珍しくグリーン上でダフった。ボールは一メートルぐらいしか前の方に進まなかった。橘さんは俺の方を振り向き、恐ろしいほどの目つきで睨んでいた。