Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第25回

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飛んでいったボールは俺もびっくりするような、いい打球だった。彼女も、「わあー、ナイスショット」と言ってくれた。ボールはフェアーウェイ、ど真ん中へ飛んでいっている。手の中に残るいい感触に、先ほどの恥ずかしい思いは消えていた。そしてしばらく、その余韻に浸っていると、彼女が、
「加納さん、じゃー先を急ぎましょうか。大分前があいたみたい」
と言って、急ぐように促した。俺もはっと我に返り、ティーグランドの人たちに頭を下げると、彼女と一緒に小走りに先を急いだ。自分の打ったゴルフボールに辿り着いた時には、吉川さんも、橘さんも、もうすでに二打目を打ち終わった後だった。俺は手に持っている七番アイアンで再び振りぬいた。今度はちょっとトップ気味だったが、ボールは真っ直ぐに前へ飛んでくれた。続いて久保田さんがバフィーを手に取り振りぬいた。今度もナイスショットだった。彼女のハンディーは二十五と書いてあったけど、「相当上手いな」と思った。彼女が打った後、俺は七番アイアンを手に持ったまま、一人で自分のボールに向って走った。彼女のボールは俺のボールより、はるか先のほうにある。自分のボールに辿り着いた時、例によって、前の二人はもうすでに、三打目を打ち終わっていた。二人のボールは前方のグリーン近くにあるみたいだ。俺が打つのをグリーン近くで眺めている。再び手に持っていた七番アイアンでボールを打った。今度はナイスショットだった。ボールはグリーンを飛び越え、グリーン奥のバンカーに入ったみたいだ。当たらなくて良いときには、よく当たる。俺は自分のボールを打った後に、久保田さんの方へ近づいていった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第26回

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彼女のスイングは見ていていい参考になる。彼女は三打目をピッチングウエッジで打った。少々ダフリ気味だったが、ボールはかろうじてグリーンの手前に乗った。
「ナイスショット」
と言うと、
「ダフちゃった」
と言って彼女はにこっと笑った。俺たちは二人でグリーンの方へ近づいていった。グリーンに近づくと吉川さんの方に向って、
「どうも遅くなってすみませんでした」
と声をかけた。すると吉川さんが、俺の方を向き、微笑みながらも、人差し指を自分の口の前に立て、橘さんの方に目をやった。橘さんはアプローチウエッジを手に握り、ピンの方に向けて、構えているところだった。中山の言葉が俺の頭の中をよぎる。
「相手がショットを打つ時には、一言もしゃべるな」
いけないと思い、その後、黙って橘さんの方をじっと眺めた。橘さんは真剣な面持ちで、ピン方向とボールの位置を何回も確かめながら、クラブをボールに向けて振り下ろした。振り下ろされたクラブヘッドは思いっきりダフった。ボールは五十センチぐらいしか前の方に進まなかった。橘さんは自分でダフったくせに、その失敗した原因の矛先を俺の方に向けた。
「ほんとに、人が打つ時には、静かにしてくれないとだめじゃないか」
俺は納得がいかないまでも、「すみませんでした」と素直に謝った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第27回

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橘さんに謝るとグリーン奥のバンカーにサンドウエッジを持って向った。バンカーの中でクラブを構えながら、どうやって振ればいいのか、判らなかった。考えてみれば、バンカーからの打ち方を中山から習っていない。考えたあげく普通のフェアーウエイからのショットと同じようにクラブを振り下ろした。するとクラブヘッドがバンカーの砂の中に深くのめりこみ、ボールはバンカーの中で少し動いただけだった。それを見て俺は次にどう言う風に打てばよいのか判らなくなった。思い切って久保田さんに聞いてみた。久保田さんなら、初歩的な事を聞いても怒らないような気がする。
「久保田さん、俺、バンカーショットした事がないんですけど、どういう風に打てばいいんですか?」
「左足を開いて、オープンに構えるの。そしてサンドウエッジのフェイスも開いて、ボールの手前から薄く砂を取るようにして、ピン方向に振り切るの」
彼女はそう言って、自分の今、手に持っているパターでバンカーショットの真似をしながら教えてくれた。彼女から教わったとおりにやってみた。するとクラブヘッドは先ほどと同じように砂の中に入り込んでいったが、そのまま砂の中に深く刺さらず、ボールの先で上手く振りぬけた。砂の爆発に因って押し出されたボールは高い軌道を描いて、ピン側、一メートルの所で、ぴしゃっと止まった。ビギナーズラックもここまでくると、気持ちがいい。そのショットを見て、皆、それぞれのテンションで「ナイスショット」と声をかけてくれた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第28回

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続いて吉川さんがグリーンエッジからの寄せのショットに入った。吉川さんのボールは橘さんとは逆に強すぎて、ピンより四メートルぐらいオーバーした。再び橘さんの番だ。橘さんはグリーンエッジにボールがあるとはいえ、もうほとんどグリーンまで距離を残していなかったので、パターで次のショットを打った。ラフに食われてボールの速度がかなり遅くなると判断したのか、パターで強く振りすぎた。これもまたピンより四メートルぐらいオーバーした。すでにグリーン上にスリーオンしていた久保田さんが最後にパターにはいった。ボールはグリーンの手前のところに、ぎりぎりオンしている。ピンまでは未だ七、八メートルの距離がある。彼女は橘さんがアプローチに入っている間も、自分のボールの後ろからピンの方を眺め、真剣にピンまでのラインをよんでいた。十分ラインが理解できていたのか、橘さんが打ち終わると、すぐにボールを打った。下から上りのラインを残していたせいか、他の二人がかなりピンをオーバーしていたせいかは判らないが、彼女のボールは空しくピンの手前、三メートルぐらいの所で止まってしまった。彼女は「あーあ」と言って一人で苦笑していた。「どんまい」と小声で言ってやると彼女はまた、にこっと微笑んでくれた。これで四人のボールが全てピンの側に集まった。四人ともあわよくば、一発でカップに入る距離にあったが、誰もその後の一打でカップの中へ沈める事ができなかった。
 波乱のアウト一番ホールは、パー五のロングホールのところ、吉川さんがボギー、久保田さんがボギー、橘さんがダブルボギー、そして俺はなんと、十二もたたいてしまった。未だ一ホール終わったばかりなのに、俺は先の事が思いやられた。