「上りライン、下りラインというのは、勿論、ボールの転がる速さに関係してくるんだけど、その他に、順目と逆目というのがあって、それも関係があるみたいですよ」
「順目、逆目って何ですか?」
「グリーンの芝は短いけど、必ず、太陽の方向に向って倒れているそうです。倒れている方向に向けて順目、その逆が、逆目って事。だから当然、順目の方が、ボールの速度だって速くなる訳」
「へー、吉川さんって、いろいろ知ってるんだね。すごいね」
「加納さん、そんなに大きな声で言わないでくれますか。恥ずかしいから・・加納さんが知らないだけで、他の人、皆、知っているんだから!」
俺は中山からいろいろとゴルフについて教えてもらったつもりでいたが、まだ知らない事がいっぱいある事が判った。今度は順目、逆目を意識して打ってみた。確かに、吉川さんが言うように、ボールの転がる速度が全然違った。コースに出る前に、この事が判っただけでも収穫だった。それからしばらくの間、時間も忘れて真剣にパターの練習を続けた。
そんな俺の元へ時計を見ながら、吉川さんが近づいて来て言った。
「加納さん、そろそろスタートの時間だから、行きましょうか?」
ついに記念すべき、俺の生まれて初めてのゴルフが始まる。胸がときめいた。
俺たちは二人で、アウト一番のティーグランドへ向った。そのティーグランドには、もうすでに、今日一緒に回る他の二人のメンバーが待っていた。吉川さんは、その二人とも知っているらしく、ティーグランドへ向いながら声をかけた。
「橘さん、ご無沙汰してます」
「おー、吉川君、久しぶり」
「まゆみちゃんも久しぶり、ちょっと太ったんじゃない?」
「余計なお世話だわよ」
皆、笑顔で親しそうに話しをしている。
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