俺は中山がゴルフ教室の為、俺の元を去った後も、しばらくの間、自分の打席に居座り、遠くから池田ゆかりの方を眺めた。彼女のスイングは、可憐で美しかった。俺のように、力一杯振っていないのに、ドライバーで弾かれたボールはネットの中段に当たっている。それに振るリズムが一定していた。それとフィニッシュの時に、遠くを見つめる彼女の真剣な眼差しが、彼女が時々見せる色っぽい目とギャップがあって、なんとなく神秘的に輝いて見えた。彼女はボールをティーアップする時も、俺みたいに手で置かないで、クラブと左足を上手く使って、ティーアップしている。一つ一つの彼女の動作が、全て、洗練されていた。俺の心の中に、彼女の姿が、益々、色っぽい天使として深く刻み込まれていった。
次の日、俺はいつもになく早く目覚めた。ゴルフコンペの集合時間は、午前八時なのに、まだ午前六時である。自分の家から四州カントリークラブまでは、車で三〇分もあれば辿り着く。俺は顔を洗うと、体操でもしようかと表に出た。体をほぐしていると、すれ違った牛乳配達のお兄ちゃんが、「おはようございます」と声をかけてくれた。早起きすると今までにない出来事が起こる。気分は爽快だった。俺は一通り体をほぐすと、車のトランクからゴルフクラブを取り出し四番アイアンを手に取った。そして昨日までのスイングを思い出しながら素振りをした。なかなかいい感じだ。ここ四週間の練習で自分のスイングが固まったような気がする。初めは、ゆっくりと自分のスイングを確かめながら、素振りをした。その内、調子に乗って段々と力を込めて振るようになった。すると三回目に力一杯、振り込んだ時に、自宅の縦樋にアイアンのクラブヘッドを思いっきりぶつけてしまった。すごい衝撃だった。縦樋には穴がぽっかり開いている。四番アイアンの方を調べてみる。シャフトがちょっと曲がっているが、折れてはいないようだ。俺はほっとした。フェアーウエイウッドが当たらない俺は、長い距離を打つときには、どうしても四番アイアンで打つ必要があった。これ以上シャフトが曲がったら、たまったもんじゃないと思い、素振りをする事を止めて、部屋の中へ戻った。 |