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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第17回

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 俺は中山がゴルフ教室の為、俺の元を去った後も、しばらくの間、自分の打席に居座り、遠くから池田ゆかりの方を眺めた。彼女のスイングは、可憐で美しかった。俺のように、力一杯振っていないのに、ドライバーで弾かれたボールはネットの中段に当たっている。それに振るリズムが一定していた。それとフィニッシュの時に、遠くを見つめる彼女の真剣な眼差しが、彼女が時々見せる色っぽい目とギャップがあって、なんとなく神秘的に輝いて見えた。彼女はボールをティーアップする時も、俺みたいに手で置かないで、クラブと左足を上手く使って、ティーアップしている。一つ一つの彼女の動作が、全て、洗練されていた。俺の心の中に、彼女の姿が、益々、色っぽい天使として深く刻み込まれていった。
 次の日、俺はいつもになく早く目覚めた。ゴルフコンペの集合時間は、午前八時なのに、まだ午前六時である。自分の家から四州カントリークラブまでは、車で三〇分もあれば辿り着く。俺は顔を洗うと、体操でもしようかと表に出た。体をほぐしていると、すれ違った牛乳配達のお兄ちゃんが、「おはようございます」と声をかけてくれた。早起きすると今までにない出来事が起こる。気分は爽快だった。俺は一通り体をほぐすと、車のトランクからゴルフクラブを取り出し四番アイアンを手に取った。そして昨日までのスイングを思い出しながら素振りをした。なかなかいい感じだ。ここ四週間の練習で自分のスイングが固まったような気がする。初めは、ゆっくりと自分のスイングを確かめながら、素振りをした。その内、調子に乗って段々と力を込めて振るようになった。すると三回目に力一杯、振り込んだ時に、自宅の縦樋にアイアンのクラブヘッドを思いっきりぶつけてしまった。すごい衝撃だった。縦樋には穴がぽっかり開いている。四番アイアンの方を調べてみる。シャフトがちょっと曲がっているが、折れてはいないようだ。俺はほっとした。フェアーウエイウッドが当たらない俺は、長い距離を打つときには、どうしても四番アイアンで打つ必要があった。これ以上シャフトが曲がったら、たまったもんじゃないと思い、素振りをする事を止めて、部屋の中へ戻った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第18回

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 部屋に戻ると、卵を三個、冷蔵庫から取り出し、目玉焼きを作って食パンと一緒に食べた。朝食を摂りながら、この前、送られてきたメンバー表に目を通した。俺の名前が書いてある所を見てみると、アウトの六番目のスタートとなっている。その横に、九時六分スタートと記載されていた。九時六分スタートなのに、何故、八時集合なんだよと思いながらも、一緒に回る人間の名前をチェックした。
 「橘建設社長、橘 憲明、ハンディー十八。久保田設備社長、久保田まゆみ、ハンディー二十五。吉川商事専務、吉川 純一、ハンディー三十六。そして最後に、建築デザイン事務所所長、加納竜也、ハンディー三十六」と書かれていた。
 なんとなく「建築デザイン事務所所長」という響きが気に入った。それと俺と同じハンディーの初心者がいることに安心感を持った。今回、ゴルフコンペに参加しようと思った動機は、営業する事が目的であった筈なのに、今の俺の頭の中にはゴルフスイングの事しか無かった。ゴルフコンペが始まる時間が待ち遠しかった。部屋の壁にかかっている時計を見てみる。午前七時を少し回ったところだった。少し出かけるには早いが、家にいてもやる事がないので、ゴルフ場へ向う事にした。
 ゴルフ場には午前八時より十五分ぐらい前に着いた。集合時間より早く着いたにもかかわらず、もうすでに銀行の営業マンが受付を始めていた。俺はその受付で「加納竜也です」と告げると、顔なじみの営業マンが「加納さん、今日は、お忙しいところすみません」と声をかけてきた。「暇だから来たんだよ」と心の中で思いつつ、「いえいえ、いつもお手数お掛けしています」と営業的な挨拶をした。それからゴルフコンペ参加料として三千円を払うと、ゴルフ手帳を受け取り、ゴルフウェアーに着替えるために、ロッカールームへ向った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第19回

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 着替えを済ますと、中山から言われたように、忘れ物はないかチェックする為に、ゴルフバック置き場へ向った。その途中でスターター室に立ち寄り、マーカーとグリーンを直す為のスティックを各々一つずつポケットの中に入れた。これも中山から言われた事である。それからゴルフバック置き場に着くと、ゴルフバックについている小物入れのチャックを開けた。その中には、中山から貰った使い古しのゴルフボールが二十個ぐらいとゴルフティーが入っている。俺はその中から、ゴルフボールを三個と、ショートティーを二本、ロングティーを二本取って、ポケットの中に仕舞い込んだ。次にゴルフクラブの確認をおこなう。「パター、サンド、ピッチング、九番アイアンから四番アイアン、クリーク、スプーン、ドライバー、合計十二本」全て揃っていた。これで準備は全て整った。俺は中山から言われた事を全てチェックし終わると、クラブハウスへ引き返し、クラブハウスのレストランでコーヒーを注文した。スタート時間の午前九時六分までには、まだ充分時間がある。俺はそのレストランでしばらく、ゆっくりとする事にした。そんなゆったりとした気分でコーヒーを飲んでいる俺の処へ、先ほどの銀行の営業マンが一人の男を連れてやってきた。
「加納さん、こちらが今日一緒にラウンドされる吉川さんです」
「あーどうも、加納竜也です。俺、下手なんで、今日はよろしくお願いします」
そう言って立ち上がり、彼と握手した。立ち上がって彼を見ると、俺の目線が十五センチほど上の方へ上がった。彼の身長は、多分、百九十センチほどあるに違いない。
「どうも、吉川純一です。俺も下手なんで、よろしくお願いします」
彼は笑顔でそう言うと、俺の横に腰掛けた。銀行の人間は、「それじゃ、私は失礼します」と言ってそのまま受付の方へ帰っていった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第20回

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「吉川さん、ゴルフするのって、何回目ですか?」
「年に五、六回かな。でもなかなか上達しなくて!」
「なーんだ、それじゃ俺よりも全然上手いですよ。なんせ俺、今日が初めてだから・・まあー、迷惑かけないようにしますから、笑わないでくださいよ」
「俺も年に数えるほどしかゴルフしないから、次やる時には、ほとんどスイング忘れていて、加納さんと似たようなもんですよ。俺も迷惑かけないように頑張ります」
二人とも、何となく気があった。彼は体はでかいくせに、なんとも言えない親しみやすい喋り方をする。今日、ラウンドする人間が彼で良かった。
 二人がコーヒーを飲みながら話し込んでいると、突然、場内アナウンスが流れた。
「宮崎相互銀行ゴルフコンペにご参加される皆様、アウトコース一番・ティーグランドまで、お集まりください」
 俺たちもソファーから立ち上がり、ティーグランドまで向った。ティーグランドには、八十人ぐらいの人たちが集まっていた。最初に支店長の挨拶があり、その後、競技上のルール説明があった。ニアピンとかドラコンとか、俺には余り関係のないような話だったので、いい加減に聞き流した。全ての話が終わると、皆、解散し、第一組目がティーアップの準備をしだした。俺と吉川さんは、自分たちの順番が来るまで、パターの練習をする事にした。中山ゴルフ練習場で、パターだけは、スムーズにカップインしていたので、ちょっとは自信があった。ポケットからボールを三個取り出し、グリーンの上に置いた。四メートルぐらい先のカップへ向けて一球目を打ってみる。グリーンが速い。中山練習場と同じ強さで打ったつもりだったが、カップから四、五メートルオーバーした。今度は二球目を、先ほどの半分ぐらいの強さで打ってみた。カップの手前、一メートルぐらいの所で止まった。続いて三球目を打つ。カップから二十センチぐらいの所でボールが止まる。三球打ってようやく強さ加減が判ったみたいだ。俺はここのグリーンの距離感を掴もうと、何回も同じところから、打ち直した。十五球ぐらい打って、やっと一個目のボールがカップの中へ入った。「こりゃー、パターも全然だめだわ」と思いながら、打つ場所を変えてみた。何箇所も打つ場所を変えてみて、初めて場所によってボールの転がるスピードが違う事が判った。俺は吉川さんに何でボールの転がる速さが違うのか聞いてみた。