Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第13回

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 初めは、必要に迫られて始めたゴルフ練習だったが、今では、少しずつゴルフの面白さが判りつつあった。クラブヘッドがボールの真芯を捉えた時の感触は、この上なく気持ち良かった。俺はゴルフ練習も四週間目に入ると、中山のゴルフレッスンが終わった後も、一時間ぐらい自分なりに練習をするようになった。ボールはそれほど飛ばないが、十球中九球は真っ直ぐに前へ飛ぶようになった。中山も俺の上達振りにびっくりしていた。
 ゴルフレッスンを受ける日も終わりに近づき、残りの三日間は、パターの練習とゴルフのルールの説明を受ける事になった。パターはカップに入れるだけなので、俺にとっては一番簡単だった。パターの振り方を教えてもらうと、いとも簡単にカップへ入った。パターは問題ないと俺は思った。中山も「それだけ入れば、初めてのゴルフコースでも、迷惑はかけないだろう」と言ってくれた。
 ゴルフレッスンの最終日、中山はゴルフスイングに対して、全般的にチェックしてくれた。俺のスイングを見て、「まあ、これで他のメンバーに迷惑をかける事はないだろう」と言ってくれた。俺も四週間の練習の成果に満足した。最後に中山は、プロのドライバーショットを披露してくれた。俺はそのドライバーショットを見て、びっくりした。俺のドライバーショットは、会心のショットでもネットに届かないのに、その今見た打球は、ネットの上段に突き刺さった。多分、俺の倍ぐらいは距離が出ているに違いない。続いて、ドローボール、フェードボール使い分けて見せてくれた。どの球もボールの勢いが俺とは全然違う。何かの曲芸を見ているようだった。俺が羨望の眼差しで眺めていると、俺の方を振り向き、
「どうだ、これがプロの打球だぜ!」
と言った。
「すごい、やっぱりプロは違うな。お前もその内にゴルフツアーで優勝するよ」
と俺は素直な感想を言った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第14回

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 中山はデモンストレーションを終わると、俺の横に腰掛け、明日のゴルフコンペで注意すべきマナーについて教えてくれた。
「まず、相手がショットを打つときには、一言も喋るな。それからティーグランド以外ではタバコを吸うな。それと相手がパッティングに入ったら、どこに居ようと動くな」
「おい、ゴルフって、やってはいけない事ばかりだなー。息が詰まりそう」
「まあ、初めてのゴルフなんだから、それくらい注意していて、丁度良いぐらいだよ」
二人がいろいろと雑談をしていると、俺の後ろの方から突然、中山に話しかけてくる女性の声が聞こえた。
「中山プロ、お久しぶりです。腰の調子はどうですか?」
「おー、ゆかりちゃん、久しぶり。大分、良くなってきたよ」
中山も親しそうに話をしている。俺はその声のする方を振り返ってみた。するとなんとそこには、俺の恋焦がれる池田ゆかりの姿があった。グリーンのチェックのキロットスカートに上はベージュのセーターを着ている。肩にはゴルフバッグを下げていた。彼女は俺の存在に気づくと、びっくりした表情で俺を見つめた。俺も突然の再会にびっくりしたが、思ってもいない嬉しい出来事に胸がときめいた。初め、ちょっとの間、お互い沈黙していたが、そんな中、最初に話し出す口火を切ったのは彼女の方からだった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第15回

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「加納さん、こちらのゴルフ練習場、よく来られるんですか?加納さんがゴルフされるなんて、全然知りませんでしたわ」
「いや、この頃、始めたばかりで、今、中山からゴルフレッスンを受けているところです」
俺と彼女が挨拶を交わしている処へ、中山が俺たちの会話に割り込んできた。
「おいおい、お前たち、前からの知り合いだったのか?」
「知り合いと言えば知り合いだけど、ねー、ゆかりさん?」
彼女は俺の顔を見て、くすっと笑った。それから今度は中山に話かけた。 「中山プロと加納さんはどういうご関係ですか?」
「加納とは、小学校時代の同級生。こいつ、今までゴルフを一回もした事がないくせに、ゴルフコンペに参加するというものだから、俺が基本的な事をレッスンしてやってるところ!」
「まー、加納さん、中山プロから直接ご指導を受けられて、幸せですわね」
「まあー、同級生のよしみと言う事で・・でもゆかりさんもゴルフするなんて、意外だったなー」
「ばーか、ゆかりちゃんはハンディー2で、宮崎県の中でもトップアマだぞ!お前とはレベルが違うの」
「いいえ、そんなに上手くありませんわ。加納さんもすぐに上手くなりますから、練習頑張ってくださいね・・それじゃ、練習始めるんで、失礼します」
彼女はそう告げると、練習場の中央の方へ歩きだした。彼女の背中越しに、
「九州アマ予選、頑張ってね!」
と中山が声をかけた。彼女は一旦こちらを振り返り、中山に頭を下げ、再び俺たちに背中をみせるとそのまま去っていった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第16回

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彼女が去った後、中山が俺に、
「彼女は色気があって、美人だし、ゴルフも上手くて、パーフェクトな女性だな」
と言った。俺も中山の意見に同感だった。俺は彼女の事について、いろいろ聞いてみた。
「彼女の年はいくつか知ってる?」
「大学を卒業してから二年目だから、多分、二十三歳か、二十四歳じゃないか」
「じゃー、俺たちより四歳、年下か。彼女はいつからゴルフを始めたんだろう?」
「彼女は東南大学のゴルフ部でキャプテンだったらしいぞ。東南大学といえば、ゴルフの名門大学だからなー。ほら、女子プロで今、活躍している北山るみって知っているだろう?
彼女も確か、東南大学の出身だったと思ったけどな」
「お前、彼女の事、結構詳しく知っているんだな」
「加納、お前ひょっとして、彼女に気があるんじゃないのか?もしそうなら、彼女だけはやめとけ。彼女はアマチュアゴルフ界のアイドルだからな。競争率高いぞ」
「彼女、彼氏いるの?」
「彼女の恋人は今のところ、ゴルフってとこかな。多分、ゴルフの練習と仕事で、彼氏作っている暇なんか無いはずだ」
俺は彼女に彼氏がいないと聞いただけで、満足だった。彼氏がいないという事はチャンスがあるという事だ。俺は少しでもゴルフの上で彼女に近づこうと、ゴルフを真剣に覚えようと心に決めた。あれだけゴルフに対して興味がなかった俺が、ここ一ヶ月間の間に、えらい変わりようだ。とりあえず、明日のゴルフが待ち遠しい。