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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第125回

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 あれから何回となく、吉ちゃんや大ちゃんからゴルフの誘いがあった。その度に断ってきた。もう一ヶ月ゴルフクラブさえ握っていない。吉ちゃんには、「俺、ゴルフのセンスがないから、もうゴルフは辞める」と明言していた。たかが遊びなのに苦痛を感じながらゴルフをする必要もない・・そんな冷めた気分でいる時、ゆかりさんから電話がかかってきた。ゆかりさんとは九州アマ予選の日以来、話をするのも一ヶ月ぶりだ。何回か電話をしようという衝動に駆られたが、その都度躊躇した。風の噂によると、ゆかりさんも今年は二次予選を通過する事が出来なかったみたいだ。その時も電話で励まそうと思ったが、俺みたいなゴルフの下手な人間が電話をしても励ましにもならないと思い電話しなかった。
 ゆかりさんの声は元気そうだった。内容はゴルフの誘いだった。今週の木曜日、どうしてもゴルフに付き合ってほしいと言う。もう一ヶ月、ゴルフをしていないからと言って、一旦は断ったが、半ば強引な誘いに断れ切れなくなった。それから集合時間も早かった。朝六時に四州カントリークラブで待ち合わす事となった。
 当日、ゴルフ場に着くとゆかりさんが万遍の笑顔で俺を出迎えてくれた。ゆかりさんは何時会っても俺に優しく接してくれる。塞ぎこんだ気持ちが幾分晴れたような気がした。朝早いせいか、吹いてくる風も心地よかった。鳥のさえずる声も近くで聞こえる。
「加納さん、おはようございます。今日はゆかりに付き合っていただいて嬉しいですわ」
「おはようございます。ゆかりさんに久しぶりに会えて俺も嬉しいです」
俺も何となく清々しい気分になっていた。ゆかりさんには人を癒してくれる不思議な雰囲気がある。
「二階のレストランに今日一緒に回ってくださる田代夫妻が来てらっしゃるので、ご紹介しますわ。それでは二階に行ってみましょうか」
俺はゆかりさんに誘導され、二階のレストランに向った。田代夫妻は椅子に腰掛け、お茶を飲んでらっしゃった。見た目、高齢の方に見える。ゆかりさんに紹介してもらうと、二人とも人懐こい笑顔で頷いてくださった。
「加納さん、田代さんたちはいつもご夫婦でこの時間帯からゴルフされてらっしゃるのよ」
「ゆかりちゃん、老人になると目が覚めるのが早いんじゃよ。ばーさんも朝早くからゴルフ行こう、ゴルフ行こう、言うてな」
何となく話を聞いているだけで、ほのぼのとした気分になる。
「加納さん、それと田代さんはエイジシュートを五回もやってらっしゃるのよ」
「ごめんなさい。エイジシュートってなんですか?」
今まで聞いた事のない言葉だった。
「エイジシュートって、自分の年齢以下のスコアーでコースを回って来る事ですわ」
「ほーっ、失礼ですが今お年はお幾つですか?」
俺は田代老人に聞いてみた。
「わしが八十三歳で、ばーさんが七十七歳じゃ。しかし未だ元気にしとるからのう・・」
言われたとおり、見た目にもとてもそんなに高齢には見えない。それに年取ってからも夫婦でゴルフを楽しめる事自体、素晴らしい事だ。若い俺が逆に老人からパワーをいただいたような気がした。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第126回

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 コースでは終始四人で和やかな雰囲気だった。久しぶりにスコアーの事を気にせずにラウンドしている自分がそこにいた。俺たちはカートに乗らずに歩いてラウンドした。老夫婦がカートに乗らないのに、俺が乗る訳にも行かない。それにしても二人ともお元気だ。移動するたびに草木に興味を示されていた。俺もラウンド中に、こんなにのんびりと周りの景色を眺めながら歩くのも初めてだった。何かゆかりさんとピクニックにでも来ている感じだ。ゆかりさんの笑顔を見るたびに心が和む。俺も自然と笑顔でゆかりさんを見つめ返していた。
 前半のハーフが終わり、二階のレストランで休憩する事になった。テーブルに着くと、奥さんがお弁当を広げられた。ウエイトレスがお茶を持って来てくれて、「いつもお元気ですね」と声をかけた。
「ゆかりちゃんに加納ちゃん、あんたたちの分も用意して来たから、一緒に食べよう」
と奥さんが言ってくださった。俺たちもおにぎりをいただく事にした。朝飯を食べて来ていなかったので、特に美味しく感じた。クラブハウスのレストランで手製の弁当を食べるのも初めてだったが、この老夫婦はいつも弁当を持参して来てらっしゃるらしい。レストランの方々もその事をよく心得ていて、暖かく見守っている。
「それにしてもお元気ですね」
俺は感心してそう話しかけた。
「自然に接しながら生活するのが、長生きの秘訣じゃわ。ゴルフも自然に話しかけながらプレイすると微笑み返してくれる・・ばーさんもゴルフが好きじゃからな・・趣味が一緒で良かったちー思ちょる」
「わたしゃ、じーさんからハンディーを六、貰ちょるんよ。じーさんも年の差しかハンディーやらんちゅうもんやから・・負けたほうが夕食を作るようにしちょるんよ」
二人の会話を聞いていると、こちらまで嬉しくなる。年老いてまで一緒に人生を楽しんでらっしゃる。その媒体としてゴルフが存在している・・「俺もゆかりさんと一緒に年取ってからもゴルフが出来たら最高だなー」ふとそう思った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第127回

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 後半のラウンドはゆっくり一時間休憩をとってからスタートした。いつもこのペースでラウンドされるらしく、スターター室の人間も、「それでは行ってらっしゃい」と老人に声をかけた。田代老人もにっこり微笑むと、「それじゃ、行ってきますじゃ」と返事した。
 後半に入っても田代老人は元気だった。ドライバーショットを打ち終わると、背筋をしゃんと伸ばして歩いていく。歩き方も俺と同じぐらいの速さで歩く。田代夫妻のペースでラウンドしていくうちに、いつの間にか、もやもやした気持ちも吹っ飛び、新たなゴルフの素晴らしさを感じていた。昨日までは、「もう二度とゴルフなんかするものか」と思っていたのにそう思っていた事が嘘のようだ。ゆかりさんも俺が楽しそうにラウンドしているのを見て、嬉しそうにしている。
 田代老人のゴルフは本当に自然を大切にし、自然を愛しているゴルフだった。少しでもダフって芝が前方に飛んでいくと、その芝を取りに行って必ずもとの位置に戻した。ボールがラフに入ってその場所に花が咲いていると、ワンペナルティーでリプレイスしてからショットした。自分のスコアーを考える前に、まず初めに自然と会話をしていた。俺も少しずつゴルフに対する考え方が変わっていった・・ゴルフというスポーツは人に喜怒哀楽を与え、時には絶望のどん底へ突き落とす。でもそれも自分自身がどのようにゴルフに接しているかで変わる。本当に奥の深いスポーツだなと思った。
 十八ホール全て回り終わると、俺とゆかりさんは田代夫妻を駐車場まで見送った。
「今日はいろいろと勉強させていただいて有り難うございました」
俺がそう言うと、
「加納ちゃん、どうじゃった?ゴルフって面白いスポーツじゃろが。ゴルフと自然を愛しなされ。迷ったら又お供しちゃるけんね」
田代老人は俺にそう言った。俺はゆかりさんの顔を見た。彼女は笑顔で見つめ返した。多分ゆかりさんが俺を励まそうとして、田代夫妻にラウンドする事を頼んでくれたのだろう。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第128回

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 田代夫妻は俺たちに別れを告げると、万遍の笑顔を残し、車で帰っていった。俺たちは車が見えなくなるまで、その場で見送った。車が見えなくなると、ゆかりさんは俺の方を振り向き、
「加納さん、ゆかりの事を想っていて下さっているのなら、もう二度とゴルフを辞めるなんて淋しいことを言わないと約束してくださいます?」
と言って俺の目を見つめた。俺の心の中からも、そう言う気持ちは何処かへ吹っ飛んで行って無くなっていた。ゆかりさんの問いかけに直接答えずに、ゆかりさんの目を見つめ返しながら言った。
「ゆかりさん、未だ時間が早いから、後ハーフプレイしましょうか?」
「望むところですわ」
俺は彼女にウインクして右手を差し出した。彼女も、にっこり微笑んで右手を差し出した。二人の手と手が合わさると、今まで雲に隠れていた太陽が顔を出し、優しい日差しを二人に降り注いだ。太陽は西に傾きかけていた。その日差しが二人の先に長い影を作っている。これから長―い二人のゴルフ人生が始まるような気がした。太陽もこちらに向かって祝福してくれているように思えた。「ゆかりさん、今日は本当に有り難う」心の中で呟いていた・・