Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第9回

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 次の日、俺は中山ゴルフ練習場へ向かった。実を言うと、俺は今まで一度もゴルフをしたことが無い。中山ゴルフ練習場には、俺と小学校時代の同級生である、中山プロがいた。 彼はレッスンプロではなくて、歴としたツアープロだ。男子プロゴルフ界のレベルは非常に高いらしく、シート権はなかなか取れないでいるらしいが、それでもシーズン中は、全国各地をいろいろと転戦していた。今年は腰を痛め、試合に参戦するかどうか様子を見ているところらしい。俺はゴルフコンペの為に、ゴルフ道具一式を用意しなくてはならなかった。そこで頭に思い浮かんだのが、中山の存在だった。俺は電話帳で彼の電話番号を調べ、早速、彼に電話してみた。久しぶりに話す俺からの電話に、最初中山も俺の事が誰だか判らないでいたが、小学校時代の同級生だと話すとすぐに思い出してくれた。俺は事情を説明し、格安のゴルフ道具を置いてないか聞いてみた。中山は中古のクラブなら、いろいろ置いてあるからすぐに出て来いと言ってくれた。
 俺が練習場のロビーに入ると、中山はソファーに腰掛け待っていてくれた。そのソファーから見えるところに中古のクラブがいっぱい置いてある。中山は俺の顔を見つけると、
「おー、加納、久しぶりだなー。元気にしてた?」
と話しかけてきた。小学校以来、初めて会う中山は、顔も精悍になり、逞しく見えた。身長も俺より若干高い。
「おー、本当に久しぶりだな。十五年ぶりぐらいかな?そっちこそ、元気にしてた?」
俺も彼に聞き返した。
「腰を今ちょっと痛めているけど、それ以外は至って健康だよ。しかし今時、ゴルフクラブも握った事がないなんて、珍しい人間だな。お前も・・」
「うーん、今までゴルフとは全く縁が無くってね。それにゴルフなんて、年寄りのやるスポーツだってずっと思っていたしな」
「おいおい、俺は年寄りじゃねーぞ」
「あっそうだな、ごめんごめん」
二人して声を出して笑った。小学生の頃仲が良かった為、すぐに打ち解けた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第10回

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「早速だけど、向こうに置いてあるクラブ、見てみろよ。お前の気に入るクラブがあるといいけどな。まあ、初めてのゴルフだったら、それも判んないか?」
俺は彼に促され、ゴルフクラブが置いてある方へ向かって歩いていった。クラブがセットされているゴルフバッグにはそれぞれ値札がついていた。中古クラブなのに、高いものでは、八万円を越す金額のものもあった。俺はどうせ年に二、三回ぐらいしか、ゴルフなんてしないのだから一番安いものでいいと思い、値札、一万五千円と買いてある商品を選んだ。「これでいいや」と中山に告げると、
「そんなクラブ、やめとけ。今時、そんなおじさんクラブ、若い人間は誰ももっていないぞ」と言った。
「俺、これで十分だわ、どうせ今度のゴルフコンペが終われば、当分、ゴルフなんてしないと思うし・・」
「あのな、お前は判らないと思うけど、このアイアンはヨネックスのカーボンシャフトで、力の無い人が使うクラブ。お前みたいに力の有り余った人間が使うと、真っ直ぐ前に飛ばないの。それにこのドライバーもマクレガーの古いもので、ほらこのヘッドが木で出来ているだろう?今はドライバーのほとんどが、スチール製か、チタン製だぞ。大体、こんなクラブ、お前みたいな若い人間が持っていたら恥ずかしいぞ」
全くゴルフに対して興味のなかった俺は、クラブなんてどんなのでもよかった。ましてはゴルフクラブなんかにお金をかける事自体、勿体ない気がした。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第11回

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「折角のアドバイスだけど、やっぱりこれでいいや。俺、お金あんまり持ってないし・・」
「お前がそれでいいと言うんなら仕方ないけどな。そのゴルフセットだったら、お前との再会を祝してただであげるよ。その代わり、明日からゴルフコンペの日まで、毎日練習に来い。俺が基本的な事だけは教えてあげるから」
「本当に、ただでいいのかい?持つべきものは、やっぱり同級生だな。えーっと、ゴルフクラブ以外にも他に必要なものがある?あれば、書き出してくれないかな?」
「俺が今から言うから自分で書け!いいか、ゴルフシューズ、ゴルフ手袋、帽子、ゴルフボール、ゴルフティー、大体そんなところかな」
「えー、そんなにいろいろあるんか?それで全部中古品がある?」
「ばーか、ゴルフボール以外は全て新品を買え!大体、ゴルフシューズなんか他人が使ったやつで、水虫でも移されたら嫌だろうが・・」
「それもそうだな。じゃー、今日、全て揃えたいから一番安くていいやつを選んでくれや」
中山は俺の為に、安くて良い物を選んでくれた。それでも全て揃えるのに、一万円ほどかかった。ゴルフとはお金のかかるスポーツだなと思った。しかしこれでゴルフコンペに参加する為のゴルフ道具は一式揃った。俺はお礼を言うと、明日からの練習の時間を何時にするか、聞いた。
「午後七時から午後九時までは、ゴルフ教室が入っているから、午後六時から一時間の練習でどうだ?」
いつも大した用事もない俺は、二つ返事で了解した。帰り際に、
「明日から必ず来いよ!ただでゴルフクラブあげたんだからな」
と釘を刺された。俺は明日から必ず通うことを約束し、ゴルフ練習場を後にした。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第12回

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 そう言った訳で俺は、それから約四週間、ゴルフの練習をするはめになった。四週間のゴルフレッスン料として一万円、ちゃっかり取られたが、それでも通常料金の半額と云う事だった。その金額も本当だかどうだか判らないが、ただ中山は俺に親身になってゴルフを教えてくれた。グリップの握り方から、一つ一つの基本動作に至るまで丁寧に教えてくれた。基本動作の繰り返しだけで、約二週間を費やした。でも二週間も毎日練習をしていると、さすがにボールを空振りする事だけは無くなった。俺は最初、ゴルフを舐めてかかっていた。全てのスポーツを満遍なくこなす俺は、ゴルフも簡単にマスターできるぐらいにしか思っていなかった。でもいざ始めてみると、野球スイングになっていて、ボールが真っ直ぐに飛んでいかなかった。五回に一回はボールを空振りした。どうもボールを打つときに、下半身が動きすぎる事が原因のようだった。中山は俺に、「頭の先から垂直に、地面に対して真っ直ぐに基本軸を置き、常にこの基本軸がぶれないように回転しろ」と指導した。その指導のおかげで、二週間たった今は、少しずつ野球スイングからゴルフスイングに変わりつつあるらしい。今日から残りの二週間はボールが真っ直ぐに飛んでいく練習をしていくと言われた。中山は俺のスイングを見ていて、真っ直ぐにボールが飛んでいかない理由をボールとクラブヘッドが垂直に当たっていない事に原因があると分析した。特に、俺の場合、常にフルスイングをしているらしく、クラブヘッドの軌道がクラブを振るたびに、まちまちであると言われた。「テークバックからフィニッシュまでのシャフトの軌道が面として円を描くように意識してスイングしろ」と言う。意識しろと言われても、初心者の俺にはそのイメージが浮かばなかった。そのイメージが判るまで、クラブを振るスピードを段々と遅くして練習をした。七分程度の力で振ってみて、そのイメージが何となく掴めた。そのイメージを忘れないように、家に帰ってからも、ほうきを逆さに握り、毎日スイングのチェックをおこなった。そのおかげで、中山が言うようなイメージを持ってスイングする事ができるようになった。