Creator’s World WEB連載
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第113回

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 俺たちの組はアウトの一組目だった。参加者もまだ数多くの人たちがその場に残り、俺たちのショットを見守っていた。俺はじゃんけんの結果、一番目に打つ事になった。普段なら観客もいるし相当緊張する所だが、先ほど吉川社長が笑わしてくれたおかげで、割とリラックスしてスイングする事ができた。出だしにも関わらず、会心のショットだった。シングルの人たちに囲まれる中で、いいショットがでると気持ちがいい。続いて亀田さんがティーアップした。いつもに無く真剣な表情をしている。今日の握りの大きさが多少プレッシャーになっているのか・・しかしさすがに場数を踏んでいる。ナイスショットだった。後の二人はいつものごとく淡々とした表情で打った。競技ゴルフのスタートはこんななんとも言えない緊張感に包まれた感じなのかもしれない。俺たちは観客に頭を下げると、フェアーウエイに向かった。
 このコースは自分のホームコースの為、コースの隅々まで俺は知り尽くしていた。それに今日はコンペの為、白マークからのスタートだ。距離がないと言う事は、三人の中で飛距離が一番でない俺にとって有利だった。二打目で無理して長いクラブを持たなくても、耐えていけば何とかパーが拾える。俺は二百ヤードぐらいの飛距離があればグリーンに乗るところでも、オービーゾーンのせり出している所ではあえて得意なアイアンで刻んで、寄せ勝負に徹した。そのおかげで前半のハーフは三十八であがってきた。吉川社長はスリーアン.ダーの三十三、内山さんは三十七、亀田さんは三十九だった。亀田さんはいつもの攻めのゴルフが災いし打ち込んではいけない深いラフに二回打ち込んだ。俺は充分にそのミドルホールを理解していたのであえて五番アイアンでティーショットを打った。コースを理解しているかどうかもスコアーに大きく影響がある。
 ハーフ休憩で食事を四人で取っていると亀田さんが俺に話しかけてきた。
「加納君、君が堅実なプレイに徹しているから面白みがないよ。もっと場を盛り上げてやろうと言う気持ちはないのかね」
「亀田さん、今日はピヨンという言葉がでないですね」
俺も言い返した。内山さんは一人で笑っていた。吉川社長も話しに加わった。
「加納さん、亀ちゃんの話なんかに耳を貸さなくて良いからね。亀ちゃんだって九州アマの予選の時なんか、本当に面白くないゴルフに徹しているんだから・・それに今日は亀ちゃんから今までの負けた分、取り戻さないとね」
「吉川さん、それは無いでしょう。俺は加納君にはお世話になっているけど、吉川さんにはお世話をしているんだから・・」
亀田さんがそう言うと皆笑った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第114回

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 後半のスタートは食事から一時間後だった。食事休憩で生ビールいっぱいで済ませたのも今日が初めてだった。俺以外の三人はアルコールを全く飲まなかった。ラウンド後にはあれだけ美味しそうにアルコールを口にしている亀田さんさえ、ラウンド中にはお酒を飲まないらしい。今までスルーでラウンドしていたので全く気づかなかった。やはりゴルフに対する考え方が俺とは違っていた。
 後半のプレイも俺は堅実なゴルフに徹した。しかし守りのゴルフだけでは、大たたきもしない代わりに爆発的にスコアーも伸びないことを知った。サービスのロングホールで無理すればツーオンが可能な所でもパーでしか上がる事が出来なかった。そして難しいホールではボギーを叩いた。寄せとパットに頼ると言っても今の俺の実力では限界があった。確実に一つずつオーバー数が増えていった。俺以外の三人はバーディーが狙えるところは必ず狙いに行った。その時には皆、真剣みが増していた。俺と同じパーでも、やっと取ったパーとバーディー狙いを逃したパーの違いがあった。やはり三人とも上手い。競技ゴルフはこういう攻め方をしていかないと勝てないのか・・競技ゴルフを意識しだしたせいか、今日は一段と勉強になった気がする。
 ホールアウトすると四人でクラブハウスの風呂場に向かった。結局、俺はトータル七十八のバーディー無し、吉川社長は後半をイーブンでまとめトータル六十九のバーディー四個、亀田さんはトータル七十六のバーディー二個、そして内山さんがトータル七十三のバーディー二個だった。チーム選では俺たちがトータル百四十八のバーディー四個、亀田さんたちがトータル百四十九のバーディー四個だった。トータルから俺たちが貰っていたハンディー六を引くと、バーディー数では一緒だがストロークで七つ勝った。風呂場のサウナで、
「加納さん、今日は返り討ちに合わずに良かったね」
と社長が言った。俺も笑顔で返した。でも吉川社長がいなかったら、バーディーの数だけ今日も俺が二人に負けていた。亀田さんも話しかけてきた。
「さっきは加納君のゴルフを面白くないゴルフだと言ったけど、今日のように一打の重みを感じながらラウンドしていたら、確実に強くなるよ・・俺の陽動作戦に剥きになる事無く、自分のプレイに徹していたからね」
内山さんも亀田さんの言葉に頷きながら、
「加納君、亀ちゃんの言うとおりだよ。競技ゴルフになるとたったの一打で予選通過するかどうかが決まる事が多いからね」
と言った。俺は話を聞きながら、ゴルフの真髄の一旦に振れたような気がした。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第115回

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 懇親会場には三十分前に着いたが、半分ぐらいの人たちがもうすでに集まっていた。俺の座る席は一番前の吉川社長の隣の席になっていた。今日は今回の工事に当たっての感謝状も貰えるという。俺は自分の席にはつかずに、今日のゴルフの成績表が貼り出されているステージの方へ向かった。数えてみると七十台で回った人たちが二十二人もいた。その中に俺の名前もあった。シングルの仲間入りをしたみたいで、何となく嬉しかった。そして池田ゆかりさんの名前もあった。彼女はなんと七十二のイーブンで上がっていた。その他の友達の名前も探してみた。七十台の中では俺の友達は大ちゃんだけだった。大ちゃんは七十八で俺と同じスコアーだった。「今日握っていたら俺が勝っていたな・・」と思いつつ、それから先を探した。吉ちゃんは八十二で、まゆみさんは八十六だった。それと可笑しかった事に月例で良く一緒に回る二村さんも八十六だった。今日はきっとまゆみさんから、「ハンディー四もたいした事ないわね」とか何とか言われるに違いない。その会話を想像しただけで笑いを誘う。俺がその成績表にしばらく釘付けになっていると、「そろそろ席に着きましょうか」と吉川社長に促された。それから社長と一緒に席について皆を待っていると、ゆかりさんも現れた。彼女は吉川社長と俺に深々とお辞儀をした。すると社長が、
「ゆかりちゃん、こっちに座りなさい」
と言って手招きをした。彼女は俺の斜め前に座った。
「ゆかりさん、七十二のイーブンは立派ですね」
俺は彼女に話しかけた。彼女はにっこりと微笑み、
「加納さんは如何でしたの?」
と聞いてきた。
「俺、今日は吉川社長に引っ張られて七十八で回る事が出来ましたよ」
「わー、凄いですわね。今度は一緒に回りましょうね」
彼女の笑顔はいつ見ても魅力的だ。俺も自然とにこやかになった。それにしても俺の席が吉川社長の隣で良かった。そのおかげでゆかりさんとこんなに近くで今夜はお酒が飲める・・



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第116回

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 その内宴会場の中も人でいっぱいになり、司会者の進行により忘年会が始まった。まず初めに社長の挨拶があった。
「・・今回の大王店の新装オープンに関しましては、加納設計事務所の加納さんや、亀田建設、内山電業、そして久保田設備様に大変お世話になりました。おかげ様で満足のいくお店として生まれ変わる事が出来ました・・」
今日は吉川商事の忘年会なので工事に関係していない人たちも数多く来ていらっしゃる。そんな中で、名前を呼んでいただいたので少々恐縮した。俺はゆかりさんの方をちらっと見てみた。彼女は俺の顔を羨望の眼差しで見つめていた。俺も笑顔で返した。ゆかりさんの聞いているところで言ってくれた事に対して社長に感謝した。
 それからステージの上で感謝状もいただいた。会場の皆が一斉に拍手をしてくれた。ゆかりさんも拍手をしながら微笑んでくれていた。ゆかりさんが俺だけの為に、拍手をしてくれている。その事が何よりも一番嬉しかった。
 工事関係のセレモニーも終わると宴会が始まった。音山さんの音頭で乾杯をした。ゆかりさんとも乾杯した。ゆかりさんは食事を取りながら終始笑顔だった。俺がビールをついでやるとビールを注ぎ返してくれた。アルコールも嫌いではないらしい。ゴルフの表彰式が始まる頃には俺も少しアルコールが回ってきた。ゆかりさんは一段と色っぽい目つきになってきている。この悩殺する色気のある目つきに見つめられた男で、「ひょっとしたら彼女は俺の事が好きなんではないか」と勘違いしない人間はいないだろうなと思った。でも実際は誰にでも優しいだけで、特別な感情など持っていないに違いない・・俺も酒に酔ってきたせいか、僻みっぽい考え方になっていた。
 表彰式では最後に男女のベストグロスが呼ばれた。男性は吉川社長で女性はゆかりさんだった。皆酔っていて会場内がかなり煩くなっているにも関わらず、ゆかりさんが呼ばれると男性陣から一斉に指笛がなった。本当に皆から愛されている事が判る。俺も一段と大きい拍手をしてやった。ゆかりさんは賞品を貰って席に帰って来るとその席に賞品を置き、いろんな人たちに酌をして回っていて空いている吉川社長の席に座った。俺の真横である。彼女から俺の横に座ってくるなんて・・びっくりした。彼女は座ると酌をしてくれた。
「でも加納さん、私、あの建物、初めて見たときに素敵だなと思いましたわ。地中海の雰囲気があって・・加納さんの人柄が伝わってきたような気がしましたの」
嬉しかった。俺はあの建物のデザインコンセプトから完成に至るまでの経緯を話して聞かせてやった。彼女は笑顔で俺に顔を近づけて聞いていてくれる。彼女のいい香りが漂う。この上なく幸せな気分になった。「彼女が俺の恋人だったらな・・一生涯大切にするのに!」
 俺は話の話題を変えた。
「ゆかりさん、俺、ハンディーが十になるまで頑張って、来年は九州アマの予選にでようかと思っているんですよ。どう思います?」
「わー、素敵ですわ。それじゃ、来年は会場でもお会いできますわね。練習ラウンドも一緒に回りましょうね」
彼女は本当に嬉しそうに喜んでくれた。また一つゴルフに打ち込むはりができた。