Creator’s World WEB連載
Creator’s World WEB連載 Creator’s World WEB連載
書籍画像
→作者のページへ
→書籍を購入する
Creator’s World WEB連載
第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第97回

LINE

一組目が出て行くと、松村さんが俺たち三人に話しかけた。
「ただ単に回っても面白くないから、一打、二百円でラスベガスでもしようか?」
後の二人はいつもしているらしくルールを理解していたが、俺はどんなゲームか知らなかったので聞いて見た。
「松村さん、俺、ラスベガスって知らないんですけど、どんなルールでするんですか?」
「ティーショットを打つ順番で、一番目と四番目の人たちと、二番目と三番目の人たちがチームになって戦うゲームだよ。二人の内良いほうのスコアーで戦うんだけど、バーディーだとひっくり返るわけね」
今一つルールが判らなかった。でもラウンドしているうちに判ってくるだろうと思って、了解した。それから打つ順番を決めるため、四人でじゃんけんした。松村さんが一番で、二番目が俺、三番目が二村さんで、最後がまゆみさんだった。二村さんが俺に言った。
「俺たち、このホールはチームだから頑張ろうね」
なんだか面白くなりそうだ。
 二組目が二打目を打ち終わると、松村さんがティーショットを打った。ナイスショットだった。俺たちみたいにボールは飛ばないが、フェアーウエイのど真ん中に飛んでいった。皆で「ナイスショット」と声をかけた。
次は俺の番だった。素振りをしていると、それを見ながら松村さんが話しかけてきた。
「ほー、いいスイングだね。こりゃ飛ばしやさんだね」
打つ前から煩い。二村さんが、
「松村さんはいつも煩いから、気にしないで打って!」
と声を掛けてくれた。俺は苦笑いしながらティーショットを打った。まずまずの飛びだったが、「ほー、こりゃ凄いわ。飛ぶーっ」と再び言ってきた。まるで誉めごろしだ。俺の次に打った二村さんはその雑音に慣れてるらしく、気にする事なく打った。これもナイスショットだった。打った後に振り向き、
「顎には負けないよ」
と言った。最後にまゆみさんが白マークから打った。ちょっとフック気味に飛んでいったが、ラフでかろうじて止まった。でもここは右ドッグになっているから、あの位置なら逆に二打目が打ちやすいかもしれない。
 俺は三打目をフェアーウエイ中央から打ちたかったので、二打目を打つ時、飛距離が稼げて割と安定している五番アイアンで打った。この辺は今までの教訓が生きている。後の三人は二打目をスプーンで打った。まゆみさんは少々ダフリ気味で、残り百八十ヤードほど残したが、後の二人はグリーン近くまでボールを運んでいっている。さすがにシングルになると長いクラブが安定している。三打目は先にまゆみさんが打った。ボールはグリーン手前のバンカーに捕まった。俺は残り百六十ヤードを七番アイアンで打った。ピン手前、二メートルで止まった。イメージどおりだ。
「ほー、ナイスショット。さーすが」
又、松村さんが言った。彼は俺のボールを確認するとすぐに三打目を打ったが、俺のボールよりピン内につけた。最後に二村さんが打った。彼のボールはぽっかりと抉られたディポットに入っていた。ディポットの中でも、抉られた手前縁の所にあった。一番難しいショットである。ショートアイアンで上から打ち込んだ。上手く打ったが距離が足らず、これもまたグリーン手前のバンカーに入った。俺と松村さんがバーディーチャンス、二村さんとまゆみさんが同じバンカーに入っている。バンカーショットは二人ともピンに寄せきれず、ボギーを叩いた。俺は惜しくもカップに入らず、パーであがった。松村さんはナイスバーディーだった。松村さんはバーディーショットを沈めるとまゆみさんに向かって、
「このホール、二点ゲット!」
と言った。彼がバーディーだった為ひっくり返り、俺とは比較せずに二村さんのスコアーと比較するらしい。バーディーとボギーで二点差がついた。



第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第98回

LINE

 次のショートホール、松村さんはまたもやバーディーチャンスにつけた。調子がいいせいか又一段と口が滑らかだ。一時も口を閉ざさない。しかし相手を野次るのではなくて、誉め殺しをするタイプだ。俺がショットを打つと、「美しい。ナイスショット!」と力を込めて大きな声でいった。ボールはワンオンしたもののバーディーが狙えるような所ではないにも関わらず・・何となく悔しい。
続いて二村さんもワンオンしたが、俺のボールと同じような所に落ちた。まゆみさんはグリーンを大きくオーバーした。寄せの返しのアプローチはグリーンが下りラインで物凄く速かった。まゆみさんの二打目はまたもやグリーンからこぼれてしまった。まゆみさんはダブルボギーを叩いた。
俺のボールはカップを過ぎてから止まらず、再び四メートルぐらい下っていった。何回もこういう場面で痛い目にあっているのに何故かいつも強く打ちすぎる。結果はボギーだった。二村さんは俺のボールを参考にして何とかパーで上がった。松村さんは上りラインを沈め、またもやバーディーだった。また大きな声で言った。
「このホールも二点ゲット!」
 松村さんは本当にここのコースを得意としているらしい。また今日は調子も良かった。まゆみさんがスコアーが余り良くない為、二番目、三番目でホールアウトする俺と二村さんが最初からずーっと二人でチームだった。三ホール目からは、さすがの松村さんもバーディーラッシュが終わり、その後の三ホールは、パー対パーで同点だった。勝負の付かなかったホールは次のホールに一点ずつ加算されるらしい。
 そんな中で迎えたアウトの七番ショートホール、驚く事に、最後に打ったまゆみさんのボールがもう少しでホールインワンする所だった。今までずーっとボギーかダブルボギーだったのに、これは奇跡にも近い。俺と二村さんは声に出して、
「入るな!入るな!」
と言った。ボールがカップの縁で止まると、俺たちはハイタッチをした。二村さんはハイタッチをした後に我に返ったのか、
「俺、シングルなのに人の不幸を願っている自分が恥ずかしい」
と言った。皆、声に出して笑った。ホールインワンは免れたものの、結局は、まゆみさん一人がバーディーでまたもや四点負けてしまった。松村さんが、
「絶妙のコンビだね」
とまゆみさんに言った。まゆみさんも嬉しそうだ。俺たちは悲痛な表情を浮かべていたに違いない。その証拠に俺はそれからも続いた松村さんの誉め殺しの言葉が妙に気になってきた。二村さんも自分がシングルである事を忘れ、松村さんのショットが曲がると「よっしゃー」と声に出して言うようになった。



第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第99回

LINE

 インの十六番ロングホール、またもや俺と二村さんがチームになっている時に、松村さんがドライバーでオービーを打った。俺と二村さんはにこやかに固い握手をした。
「このホールはまゆみちゃん頼んだよ」
と松村さんが言った。まゆみさんは、「任せといて!」と言ってティーショットを打った。悔しい事に今日一番のドライバーショットだった。飛距離もかなり出ている。
「ナイスショット。本当に頼りになるね。顔も美しいし、もう最高!」
彼は味方にも誉め殺しをするらしい・・と言うか、全ての事にコメントを言わないと気が済まない性格なのかもしれない。でもまゆみさんは気分がよさそうだった。二打目もナイスショットだった。たまたま俺たち二人の二打目は左側へ飛んで行ったので、カートには俺と二村さんの二人だけしか乗らなかった。二人、カートの上からまゆみさんの三打目を見守った。まゆみさんのボールはトップ気味に飛んでいきグリーン手前のバンカーに向かって勢いよく転がっていった。二人は小さな声で、
「バンカーに入れ。入れ、入れ」
と呟いた。そのボールは俺たちの期待通り、バンカーに入った。俺たちはまゆみさんに判らないようにカートの上で小さくガッツポーズを取った。それからお互いに顔を見合わせて、にっこりと笑顔を交わした。
「ハンディー二十五の人の失敗したショットを喜ぶ気持ちは情けないけど、でもやっぱり嬉しいよね。俺たち相当負けているからいいよね?」
二村さんは俺に同意を求めるようにそう話しかけてきた。二村さんはローシングルなのに、無邪気に自分の気持ちを表現している。ローシングルらしくないが、何となく人間味があって好感が持てた。
 グリーンへは俺と二村さんがスリーオン、松村さんとまゆみさんはファイヴオンだった。このホール、二人でチームを組んで初めて二点勝った。スコアーの事よりも勝った事の方が嬉しかった。
インの十八番まで全て回り終わり、俺は八十五だった。松村さんが七十四、二村さんが七十九、まゆみさんが九十だった。彼女は握りでは勝って、しかもスコアーも良かったので機嫌が良かった。松村さんが、
「まゆみちゃん、今回のスコアーでハンディー上がるかもよ。今日は握りも勝って全て良かったね」
と声をかけた。彼女も満足そうに松村さんを見つめ返した。
「まあー、今日の所は仕方ないか・・でも意外と面白かった」
俺は三人に今日のお礼を言うと、クラブハウスを後にした。
  
  
  






第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第100回

LINE

 吉川さん所のパチンコ屋の工事着工はお盆過ぎの八月十七日から行われた。神主さんを呼んで、工事の安全祈願の鍬入れ式も行った。その場に亀田建設の社長も、内山電業の社長も来ていた。トータリークラブの例会では何回かお会いしていて、その度にゴルフへ行こうと誘われていたが、中々日程の調整が付かず、未だ一度も一緒にゴルフをする機会に恵まれていなかった。恵まれなかったと言うよりも意図的に避けていたところもある。それというのも大ちゃんから、「あの先輩たちのゴルフの握りは大きいから、止めといた方が良いですよ」とアドバイスを受けていたからだ。でもさすがに今日は断りきれなかった。トータリークラブの例会では昼食時にゴルフの話題が出ると、例会終了後、逃げるように帰っていたが、今日はそうもいかなかった。今日から工事に着工する為、今日一日、この場から離れる事ができなかった。「加納君の都合に合わせるから」と言う亀田社長の言葉に断る理由も思いつかなかった。結局、今週の日曜日、リーベントカントリークラブでラウンドする事を、吉ちゃんと二人約束させられた。