Creator’s World WEB連載
Creator’s World WEB連載 Creator’s World WEB連載
書籍画像
→作者のページへ
→書籍を購入する
Creator’s World WEB連載
第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第93回

LINE

 六月二十四日、吉川さん所の改装工事について見積書を各業者が提出した。あれから質疑事項がファックスで送られてきたが、廃番になっている仕上げ材も多少あった。同等品で見積もりを依頼した。各業者の見積書を合計してみると、計画より一千万ほど予算をオーバーしていた。予算を合わせてくれると言う事だったが、調整金額が十パーセントを超えると業者さんとしてもしんどい筈だ。若干の仕様変更する必要があった。俺は吉川社長に相談した。
社長は店の全体イメージが変わらなければ仕様変更をしても構わないと言ってくださった。
俺は仕上げ材の見直しに入った。でも意匠的に崩さないように仕様を変更するのはなかなか時間がかかる。業者さんと相談しながら、いろいろなサンプルを取り寄せた。幸いな事に、店のオープンまでにはまだ大分時間があった。石材関係は中国から取り寄せる事とした。取り寄せるのに一ヶ月ぐらいかかるとの事だったが、現場施工には支障はなかった。いろいろと仕様変更を繰り返しながら、やっと予算に近づける事ができた。後は業者さんに協力してもらうしかない。
最終的に仕上げ材を決定するのに二週間ほど費やした。俺はベニヤにサンプルを貼り付け仕上げ表を作ると、再び吉川社長の元を訪ねた。社長は社長室で俺を待っていた。
「加納さん、今回はいろいろとお手数かけました。おかげ様で、満足のいく店になりそうです」
社長は機嫌が良かった。
「こちらこそ、お世話になりました。でもまだ、オープンまではデザインチェックしていかなければなりませんので・・」
俺がそう挨拶をすると、ちょっと間を置き相談を持ちかけられた。
「実は今度、私の持っている高尾カントリークラブの会員権を三分割する事になりましてね。三つも持っていても仕方がないんで、その内の一つを加納さんに買って貰えないかなーと思って・・」
ゴルフクラブの会員になるなんて今まで考えて見た事もなかった。会員になる意味合いがほとんど判らなかった。俺はゴルフクラブの会員になる事によって、どう言うメリットがあるのか聞いてみた。社長は詳しく説明してくれた。
「年会費は一万五千円払わなければいけませんが、日頃、コースを回る時にはメンバー料金で回れますし、それにオフィシャルハンディーが貰えますよ」
「メンバー料金って幾ら位ですか?」
「大体、ビジターの半分以下ですね。それにいろいろな大会にも参加する事ができますしね。加納さんみたいに、ゴルフに興味のある方は、一つぐらいは会員権を持ってた方がいいと思いますけどね」
会員権の譲渡金額を聞いてみると、俺のゴルフに行く回数からして一年間で元を取る金額だった。二つ返事で了解した。支払いは今回のデザイン料と相殺してもらう事にした。話がまとまると二人で高尾カントリークラブへ向かった。クラブハウスの応接間で名義変更を済ませた。全ての手続きが終わると、年間スケジュールの手帳と会員名簿を貰った。その手帳を見てみると、明後日が月例と書いてあった。



第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第94回

LINE

「月例ってなんですか?」
支配人に聞いてみた。
「月一回開催される会員によるゴルフコンペの事ですよ。この月例によってハンディーが決まるわけです。勿論、ハンディー委員会で吟味された後ですけどね」
詳しく教えてくれた。今度は会員名簿に目を通してみた。何人か知っている人がいた。更に下の方に目を通す。最後の方に久保田まゆみと書いてあった。「へー、久保田さんもここのメンバーなんだ」と思いつつ、再び支配人に聞いた。
「月例って、好きな人と一緒に回って良いんですか?」
「ここのクラブはオッケイですよ。余り畏まったクラブではありませんから」
俺は後から久保田さんへ電話をしてみようかと思った。吉川社長とはクラブハウスで別れた。俺はその足でヤードストーンへ向かった。店では相変わらずマスターが暇そうにしていた。退屈していたのか、俺の顔を見るとやけに嬉しそうだった。コーヒーを注文し、マスターとカウンター越しに座った。
「この前は面白かったね。でもマスター大分ゴルフの腕前落ちたんじゃない」
あれから一回、マスターに無理を言ってゴルフコースを一緒に回った。大ちゃんが俺たちに付き合ってくれた。マスターは九十二で回った。でも十年間ゴルフクラブを握っていなかった割にはスイングが物凄く綺麗だった。さすがにレッスンプロをしていただけあって、今も基本がしっかりしていた。
「でも竜ちゃん、十年ぶりにやったんだよ。私としては上出来だね」
「また暇見つけて行こうね」
「そうだね。今度は竜ちゃんに負けないように、ちょっとは練習しておくね」
マスターとこの店でゴルフの話ができるなんて幸せな事だった。それからしばらくの間、いつものようにたわいない会話を楽しんでいたら、四人連れの他のお客さんが店の中に入って来た。久しぶりに俺以外のお客さんをこの店で見たような気がする。マスターの顔が綻んだ。俺は久保田さんに電話をしてみる事にした。折角来てくれたお客さんに迷惑をかけたらいけないので表へ出た。三回目の呼び鈴で電話に出てくれた。
「まゆみさん?加納です」
「あら、加納さんどうしたの?仕事の話?それともゴルフの誘い?」
「どちらかと言うと、最後の方かな。まゆみさん、高尾カントリークラブのメンバーなんですよね。俺も今度メンバーになったんですよ」
「あらそう、良かったじゃない。今度から高尾カントリークラブへ行く回数が増えるわね」
「それでね。明後日、月例になってて一緒に回らないかなーと思って・・」
「もう長い事、月例に顔を出していないけど、加納さんが行くんだったら行ってもいいわよ」
「本当ですか。それじゃお願いします。俺、初めての参加なんで知っている人が居た方が心強いんで・・」
「判ったわ。それじゃ、後二人のメンバーは私が組むわね。私の親しい人に電話してみるね」
「ありがとうございます。それじゃ、明後日」
電話を切った。初めての月例が楽しみになった。俺は再び店の中に戻るとマスターと話し始めた。マスターも俺と話す時は楽しそうだ。
  
  
  






第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第95回

LINE

 月例のスタート時間は朝早かったが、もうすでにかなり蒸し暑かった。スターター室の壁に取り付けてある寒暖計は二十五度に達していた。多分日中は三十度を越えるに違いない。俺は自販機でペットボトルを買ってカートに設置してあるクーラーボックスの中にいれた。それから貼り出してある月例のスタート時間に目を通した。俺の組は三番目のスタートでメンバーは、松村、二村、久保田、加納と書いてあった。まゆみさん以外は知らない人たちだった。俺はパターを手にとって練習グリーンに向った。
練習グリーンでは数多くの人たちがパターの練習をしていた。人が多すぎて練習するスペースすらない。まゆみさんは未だ来ていないみたいだった。仕方なくボールを手に持ってぼーっと立っていると、俺に声を掛けてくる人がいた。
「ここちょっとスペースあけるから、ここで練習して良いよ」
「あー、すみません」
お礼を言った。俺がパターの練習を始めるとまた話しかけてきた。
「月例で余り会った事ないけど、今日で何回目?」
「俺、今度、会員になったばかりで今日が初めてです」
「やっぱりそうか、もしかして加納君じゃない?」
「そうです。加納と言います」
「やっぱり、俺、二村です。まゆみちゃんから電話きてて・・今日一緒に回ろうって。その時、加納君の名前聞いたんだよね。今日はよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
話しかけてきたのは今日一緒に回るメンバーの方だった。それからもう一人のメンバーの人を紹介してくれた。
「松村さん、こちらは加納君、今日が月例初めてだから、余り苛めないようにしてくださいよ」
「私はそんなに意地悪じゃないよ」
松村さんはそう言いながら俺の方を振り向き、
「加納君、ようこそ私たちのクラブへ来てくださいました。気の良いメンバーばっかりだから、今日は楽しく回ろうね」
と言って握手をしてくれた。見た目には相当年配の方に見えるが、なんとも言えない無邪気な笑顔をしていた。それからしばらく雑談をしているとまゆみさんも現れた。



第1回 第2回 第3回 第4回
LINE

アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第96回

LINE

「松村さん、二村さん、久しぶりでーす」
「おー、まゆみちゃん、久しぶりだな。月例に来るのも久しぶりなんじゃないの?でもしばらく見ない内に又一段と綺麗になったね」
松村さんがそう言った。
「あら、松村さんっていつも嬉しい事を言ってくれるんだから!」
まゆみさんはそう言って彼の肩を叩いた。そして二村さんに、
「この前は、宮崎市まで車に便乗させて頂いて有り難うございました。でも運転が物凄く怖かったわ」
と言った。
「でも時間に遅れそうだったから・・ごめんね」
二村さんがそう言うと、俺に向かって、
「二村さんの車って、後ろのトランクのところに羽が付いているし、中年暴走族って言われているのよ」
と笑いながら言った。二村さんはその言葉を否定したが、満更嘘でもないらしい。それから改めて二人を紹介してくれた。
「松村さんはお茶屋さんで、このクラブでクラブチャンピオンも取った事があるのよ。ハンディーは四で年配の方の中では相当上手いわ。それと二村さんもハンディー四で、仕事の方は二村商事っていって飼料関係を取り扱ってらっしゃるの」
「そうですか。俺、加納設計事務所って言って建築関係の図面を描いてます。なにか仕事がありましたらよろしくお願いします」
俺も改めて二人に挨拶した。お互いに自己紹介を済ますと、四人でアウト一番のティーグランドへ向かった。ティーグランド上では一組目がスタートする所だった。さすがに毎回月例に参加しているだけあって、皆、いいショットを打っている。