六月二十四日、吉川さん所の改装工事について見積書を各業者が提出した。あれから質疑事項がファックスで送られてきたが、廃番になっている仕上げ材も多少あった。同等品で見積もりを依頼した。各業者の見積書を合計してみると、計画より一千万ほど予算をオーバーしていた。予算を合わせてくれると言う事だったが、調整金額が十パーセントを超えると業者さんとしてもしんどい筈だ。若干の仕様変更する必要があった。俺は吉川社長に相談した。
社長は店の全体イメージが変わらなければ仕様変更をしても構わないと言ってくださった。 俺は仕上げ材の見直しに入った。でも意匠的に崩さないように仕様を変更するのはなかなか時間がかかる。業者さんと相談しながら、いろいろなサンプルを取り寄せた。幸いな事に、店のオープンまでにはまだ大分時間があった。石材関係は中国から取り寄せる事とした。取り寄せるのに一ヶ月ぐらいかかるとの事だったが、現場施工には支障はなかった。いろいろと仕様変更を繰り返しながら、やっと予算に近づける事ができた。後は業者さんに協力してもらうしかない。
最終的に仕上げ材を決定するのに二週間ほど費やした。俺はベニヤにサンプルを貼り付け仕上げ表を作ると、再び吉川社長の元を訪ねた。社長は社長室で俺を待っていた。
「加納さん、今回はいろいろとお手数かけました。おかげ様で、満足のいく店になりそうです」
社長は機嫌が良かった。
「こちらこそ、お世話になりました。でもまだ、オープンまではデザインチェックしていかなければなりませんので・・」
俺がそう挨拶をすると、ちょっと間を置き相談を持ちかけられた。
「実は今度、私の持っている高尾カントリークラブの会員権を三分割する事になりましてね。三つも持っていても仕方がないんで、その内の一つを加納さんに買って貰えないかなーと思って・・」
ゴルフクラブの会員になるなんて今まで考えて見た事もなかった。会員になる意味合いがほとんど判らなかった。俺はゴルフクラブの会員になる事によって、どう言うメリットがあるのか聞いてみた。社長は詳しく説明してくれた。
「年会費は一万五千円払わなければいけませんが、日頃、コースを回る時にはメンバー料金で回れますし、それにオフィシャルハンディーが貰えますよ」
「メンバー料金って幾ら位ですか?」
「大体、ビジターの半分以下ですね。それにいろいろな大会にも参加する事ができますしね。加納さんみたいに、ゴルフに興味のある方は、一つぐらいは会員権を持ってた方がいいと思いますけどね」
会員権の譲渡金額を聞いてみると、俺のゴルフに行く回数からして一年間で元を取る金額だった。二つ返事で了解した。支払いは今回のデザイン料と相殺してもらう事にした。話がまとまると二人で高尾カントリークラブへ向かった。クラブハウスの応接間で名義変更を済ませた。全ての手続きが終わると、年間スケジュールの手帳と会員名簿を貰った。その手帳を見てみると、明後日が月例と書いてあった。
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