二日後、吉川社長の事務所で施工業者を呼んで、見積もり説明会を開催した。亀田建設と内山電業は営業部長が来ていたが、久保田設備は社長自ら来ていた。
「久保田さん、久しぶりです」
俺は彼女に声をかけた。
「あら、加納さん、久しぶりです。今回は匿名で呼んでいただいて有り難うございました」
「いやー、俺には決定権はありませんから。お礼を言うんだったら、吉ちゃんに言ってください」
久保田さんは正面の机に座っている吉ちゃんに向かって手を振った。相変わらず、この人は明るくて人懐っこい性格だ。業者さんとの名刺交換が終わると俺も席に着き、早速、見積もり説明会に入った。俺が司会をする。まず初めに、吉川社長に挨拶をしてもらった。その後、図面の説明を一通り行った。質疑に関してはファックスで貰う事にした。見積もり提出日を今日から十日後の六月二十四日とした。説明会が終わると久保田さんが吉ちゃんと社長の所に近付いてきて、今日の事について改めてお礼を言った。社長は挨拶を済ますと用事があるみたいで、「後の事はよろしくお願いします」と俺に言って部屋を出て行った。社長が出計らったのを見守ってから、吉ちゃんが久保田さんに話しかけた。
「今週の土曜日、竜ちゃんと大輔と三人でゴルフへ行くんだけど、一緒に行かない?」
「大ちゃんって久山君の事?」
「そうそう、大輔の事、よく知ってるよね」
「お姉さんとは友達だからよく知ってるけど、この頃、大ちゃんとは会う機会が余りないわね・・でも仕事も匿名で下さった事だし、お供するわ」
話はまとまった。土曜日は四人でラウンドする事になった。三人で回るより、四人の方がにぎやかで楽しいかもしれない。
土曜日のラウンドはリーベントカントリークラブを回る事になった。市内のゴルフ場ではこのコースが一番難しい。フェアーウエイが狭くてアップダウンが激しい。ゴルフ場の名前をリーベントというくせに、グリーンがベント芝じゃなくてコウライ芝になっている。ベントグリーンに慣れているせいか、どうもコウライ芝は距離感と転がり方がいま一つ判らなかった。このコースも何回か回った事があるが、満足の行くスコアーで回った事は一度もない。大ちゃんがこのコースを選んだのも、実力以上のスコアーが出にくいと思っているからだろう。今日は真剣に俺たちと戦うつもりでいるらしい。
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