「でも純一さん、一時はどうなるかと思いましたよ。本当に上手くなっていますわ」
久山さんが吉川さんにそう話しかけた。吉川さんは今日のスコアーに納得がいかなかったらしく、機嫌が悪かった。
「うるさい。今度は負けないからな」
と言った。
「今度回る時は、もっとハンディーやりましょうか?」
「いらん、今度はハーフ六でいい」
「人の好意の判らない人だな。純一さんたら、意固地なんだから」
久山さんは、にこっとしながらそう言った。俺は二人の会話を聞いていて、何となく可笑しかった。二人の会話を漫談みたいに聞きながらクラブをチェックしていたら、七番アイアンが入っていない事に気づいた。
「あれ、大ちゃん、俺、七番アイアンをコースに忘れてきたわ」
「インの十六番じゃないですか?二打目を打つ時に三本ぐらいクラブを持って行ったでしょ。多分、あの時ですよ」
「あー、多分、その時かもね」
俺はダブルボギーが続き、集中力がほとんど切れていた。クラブを忘れるほど冷静さを失ったらいけないなと反省した。
「でも僕たちが風呂から上がってくる頃には、グリーンキーパーの人たちが持って来てくれますよ。風呂に入る前に、僕がフロントに言っときますから」
「あー、有り難う」
俺たちはクラブハウスの風呂場へ向った。風呂場のサウナに入りながら話をしていると、吉川さんの機嫌も直ってきた。久山さんは人の誉め方が上手い。
「でも純一さん、シングル並みのショットが何本かありましたね。もうハンディー十五ぐらいの実力は十分にあると思うな」
「まあー、そこまではいかないにしても、九十五以上打つ気はしないね」
「またまた、ご謙遜を!」
吉川さんの顔が次第にほころびだした。しばらくの間、三人でゴルフ談義に花が咲いた。風呂から上がると、久山さんがフロントに俺のクラブがなかったか聞いてくれた。フロントの人も忙しそうにしていて、直接、クラブ保管庫に見に行ってくださいと言う。久山さんとはかなり親しい人みたいだった。俺たちがクラブ保管庫へ向おうとすると、「忘れ物のクラブは、一番左の棚だから」と付け足して言った。
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