Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第77回

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 そんな訳で俺たち三人は、トータリークラブの例会が終わるとレインブリッジカントリークラブへ向った。このコースは久山さんのメンバーコースらしい。例会の途中でクラブハウスに電話をかけ、予約を入れてくれた。クラブハウスに着くと俺たちの前に二台、ゴルフカートが止まっていたが、それより先にコースへ出してくれるようだった。おかげさまで、待ち時間無しで回れる事になった。吉川さんがハンディーを七つ貰ったので、俺も七つ貰う事にした。ゴルフカートでインの十番ホールに着いて俺が素振りをしていると、久山さんが俺のクラブバッグを見ながら、一人でくすくす笑っていた。俺は何が可笑しいんだろうなと思い久山さんに聞いてみた。
「大ちゃん、何が可笑しいの?」
「あーごめんなさい。だって加納さんのクラブ、余りにも古くて、何種類も入っているんですもん。ドライバーがキャロウエイでしょ。クリークとスプーンがマクレガーでしょ。アイアンがヨネックスでしょ。そしてサンドウエッジがウイルソン。大体、まともなクラブと言えば今加納さんが手に持っているキャロウエイぐらいしかないし・・」
「えー、そんなに可笑しいかい?クラブを替えると、もっとスコアーが良くなるかな」
と俺は久山さんに言った。
「確実にスコアーは伸びると思いますよ。ドライバーだって、そのビックバーサは古いタイプだから、僕がこの前まで使っていたビゲストに替えれば後、十ヤードは確実に飛距離が伸びると思いますね。それに今頃から、カーボンシャフトのアイアンを使っていたら、年取ってから使うクラブがなくなっちゃいますよ。僕たち若者は、やっぱりスチールシャフトを使わなくっちゃ」
久山さんが話し終わると、吉川さんも話しに加わってきた。
「竜ちゃん、言いにくいけど、俺もそう思うわ。でも大輔はゴルフクラブオタクだから、こいつも異常だけどもね。だって三ヶ月に一回、クラブ買い換えてるんだから。あっそうだ、大輔の飽きの来たクラブを安くで譲ってもらえば!」
「へー、大ちゃんって、そんな金持ちなんだ?」
「金持ちなんかじゃありませんよ。ただ会社経費で落としているだけ」
「いいな。もし買い換える時は安くで譲ってね」
俺がそう言うと、久山さんはにこっとして頷いてくれた。俺たちが話し込んでいる内に、前の組は二打目を打ち終わっていた。久山さんが、
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
と言った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第78回

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 三人が打ち終わってボールの落下地点に行ってみると、やはり久山さんのボールは俺たちよりかなり前の方に飛んでいた。三十ヤード以上俺たちのボールより飛んでいるだろうか?俺は久山さんに声をかけた。
「大ちゃん、やっぱりシングルになると飛距離も違うね」
「加納さん、クラブの違いですよ」
「そうかな?大ちゃんの今使っているクラブは何と言うクラブ?」
「ブリジストンのビームってクラブです。次のミドルで振ってみても良いですよ」
「本当?有り難う」
 インの十番ロングホール五百三十ヤード、サービスホールなだけに上がってみると、久山さんはバーディーで、俺と吉川さんはパーだった。俺たちと久山さんの何処が違うかというと、勿論、飛距離も違うんで三打目のピンを狙うアイアンショットが有利になるのは当然だが、それにしても寄せのショットとパターの精度が俺たちより格段上のような気がした。二メートルのバーディーパットを狙う時の集中力も違っていた。俺たちがピンに近づける為のパターをしている時も、あらゆる角度からグリーンのアンデュレーションを確認し、ラインが読めると難なくボールをカップに沈めた。これがシングルプレイヤーと俺たちの違いか?
 次のイン十一番ショートホール百五十ヤード、久山さんの打ったボールはピン奥、三メートルほどの所に落下した。俺はボールがグリーンからこぼれたと思った。するとボールは鋭いバックスピンがかかって、ピンに近づいていった。ピン側、一メートルの所でボールは止まった。
俺は中山から「宮崎県のゴルフ場は受けグリーンが多いから全てのショットはピンの手前から攻めろ」と言われていたので、久山さんの見せてくれたショットは俺の概念を打ち崩すショットだった。俺と吉川さんはセオリーどおりピン手前から転がしてグリーンに乗せた。と言うか、バックスピンのかかるボールなど打てる筈もないのだが・・
「純一さん、ここでワンオンするなんて、やっぱりゴルフ上手くなってるわ」
と久山さんが言った。
「だから、上手くなったって言っただろう」
吉川さんも久山さんからゴルフの腕前を認められて、満足そうだった。俺たちはグリーン上に上がりピンの位置を確認した。ピンはグリーンの一番高い所に切ってあった。久山さんのボールはピンまで真っ直ぐなラインで上っている。俺と吉川さんのボールはピン手前ではあったが、上りの鋭いフックラインになっていた。ピンまで一番遠い所にボールのある俺から最初に打つ。ボールはカップまでどんどん近づいていき、カップにもう少しで入りそうになったがカップを通り過ぎると、そこから加速がつき、カップから三メートルもオーバーしてしまった。続いて吉川さんがボールを打った。吉川さんは俺のパットを見て、カップを過ぎると早いと判った為、直接カップインを狙わずピン手前でボールを止めた。三打目を久山さんより早くカップに沈め、ナイスパーだった。俺は返しのパットが入らず、ボギーで久山さんはまたもやバーディーだった。俺はグリーンにボールを乗せる時には他の人よりピン近くに寄せといた方がラインが見えて優位だなと思った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第79回

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 続いてイン十二番ミドルホール三百八十ヤード、久山さんはドライバーショットを打ち終わると、
「加納さん、僕のドライバー打ってみます?」
と言ってくれた。俺はそのドライバーを貸してもらい、何回か素振りをしてみた。シャフトの長さが四十五・五インチと今使っているドライバーより一インチほど長かったが、シャフトの硬さが俺のと余り変わらなかった為、違和感なく振れた。むしろ俺のドライバーより遠心力がかかってヘッドの重みが感じられるような気がした。スイングしている時も、手で振っている感覚が余りなく、体の回転によってスムーズにクラブヘッドが体に巻きつくように出てくる。自分のクラブよりリズムカルに振れるような気がした。俺はティーアップすると自分のクラブと同じように振りぬいた。
「ふぇー、こりゃ飛ぶわ!」
「だから言ったでしょ。ドライバーは道具で飛距離が違うって」
久山さんは頷きながらそう言った。俺の打ったボールは久山さんのボールの位置までは届かないものの、今度は十ヤードぐらいしか飛距離が変わらなかった。あそこまで飛べば、次は八番アイアンで打てる。俺は二打目地点まで久山さんと並んで歩いた。
「大ちゃん、ブリジストンのビームって言ったっけ?俺もそのクラブに買い換えようかな」
「このドライバー以外にも飛ぶドライバーはいっぱいありますよ。僕が以前使っていた、キャロウエイのビゲストだってこれぐらい飛びますよ」
久山さんは俺の相談にそう答えた。
「それじゃ、大ちゃんは何故このクラブに買い換えたの?」
「新しい物が出るとすぐほしくなると言うのもあるけど、しいて言えば、ヘッドバランスが僕に合っていると言う事ですかね。特にドライバーはシャフトが命だから、このドライバーもスピーダーのこのシャフトに替えてからしっくりいきだして・・」
「へー、いろいろとクラブにも理論があるんだね」
 二打目を打つボールの所まで辿り着くと、俺は八番アイアンを手に取った。ピンまで約百三十五ヤード、フェアーウエイのライもしっかりしていて打ち易かった。ボールはピンへ絡んでいった。吉川さんも同じような距離から二打目を打った。これもピン方向へ真っ直ぐに飛んで行き、ナイスオンだった。
「わーお、二人ともそんなにいいショットを打つんだったら、次回からハーフで七つもハンディーをやれないですね」
久山さんがぼやいた。今日の俺は出来すぎだったが、吉川さんは確かに上手くなっている。多分、もうすでに九十は切ってくる実力を身に付けてきているかもしれない。続いて久山さんがピッチングウエッジを手に取り構えた。今まで以上に真剣な顔をしている。ボールは高い放物線を描き、ピン側でぴたっと止まった。あの距離だったらまたバーディーだ。
 このホール、上がってみると、久山さんはまたもやバーディー、俺も二メートルのパットを沈めてバーディー、吉川さんは三打目のパットをわずかに外してパーだった。久山さんの三ホール連続バーディーも凄いが、俺たちのここまでパープレイと言うのも凄いと思った。ゴルフとは波に乗れば、実力以上のスコアーがでるスポーツなのかもしれない。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第80回

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 次のイン十三番ホールは長かった。右ドックになっているコースだが、右も左もすぐそこにオービーゾーンがある。距離は四百五十ヤードと表示されている。俺の飛距離からしてどうあがいてもツーオンはありえない。最初に久山さんがドライバーを打った。久山さんは右の林ぎりぎりにボールを打ち出した。最短距離で攻めるにはここしかないと言う所へボールは飛んでいった。ナイスショットだった。林に遮られてボールの位置は確認できないが、多分フェアーウエイのど真ん中にあるに違いない。次は俺の打つ番だ。こんな長いコースほど久山さんのドライバーを借りて打ちたかったが、久山さんから言ってくれない限り、二回も借りる事に気が引けたので、自分のクラブで打った。距離がある事が頭から抜けなかったせいか、打つ時に力が入った。体重が右足に残ってしまい、右肩が下がったまま振りぬいてしまった。ボールはスライスして飛んで行き、オービーゾーンへ吸い込まれていった。そんな俺のボールを見ていた吉川さんは、力まず七分程度でドライバーを振った。ボールは余り飛ばなかったが、真っ直ぐに飛んでいった。フルバックから回っていたら打ち直しの所を今日は白マークから回っていたので、俺はプレイイング四の所から四打目を打つ事になった。フルバックから回っていなくて助かった。打ち直しをしたら、またオービーがでないとも限らない。二打目はまず最初に吉川さんが打つ。ドライバーショットが余り飛ばなかった為、未だピンまで二百三十ヤードほど距離を残している。吉川さんはスプーンを手に持った。俺はこの前、中山が言った、「ロングホールの二打目は距離がでて一番得意なクラブを使え」その言葉を思い出し、「五番アイアンぐらいで打てばいいのに」と思ったが、口に出しては言わなかった。吉川さんが残している距離を考えると、ロングホールの二打目を打つのと、ほとんど変わらないような気がした。案の定、吉川さんは力が入ってしまい、左に引っ掛けてオービーを打ってしまった。口には出さなかったが、明らかに動揺していた。打ち直しのショットもクラブを持ち替える事無く、再びスプーンで打った。今度はトップってピンまで距離を八十ヤードほど残してしまった。俺はプレイイング四から二百ヤードほどしか距離がなかったが、あえてバフィーを握らずに、五番アイアンで打った。グリーンには届かなかったが、グリーン手前、三十ヤードまでボールを運ぶ事ができた。この時点で俺も吉川さんも四打目を打ってしまった。距離の長いホールの魔物に俺たちは冷静さを失ってしまっていた。最後に久山さんがピンまで残り百九十ヤードを四番アイアンで打った。ナイスショットだった。グリーン手前のエッジでボールは止まった。いつもフルバックから回っているだけあって、さすがにロングアイアンに自信を持っている。俺たちは五打目を二人ともピンには寄せきれず、トリプルボギーを叩いてしまった。久山さんも三打目をワンパット圏内に寄せきれず、ボギーだった。
 ゴルフは一旦、リズムが狂いだすと怖いものだ。その次のホールから俺も吉川さんも少しずつショットが狂いだし、三ホール連続でダブルボギーを叩いてしまった。ハーフプレイが終わってみると、俺が四十六、吉川さんが四十五で平凡なスコアーで終わった。さすがに久山さんだけはスコアーをまとめ、イーブンパーで回ってきた。結局、俺たちは久山さんに負けてしまった。ゴルフのスコアーは精神的なものが物凄く影響するなと思った。