Creator’s World WEB連載
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第73回

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「おー、竜ちゃん。昨日はどうも」
「こちらこそ」
「でも昨日ゴルフ場へ行った事は社長には内緒にしといてね。竜ちゃんと図面の打ち合わせをしていた事になっているからね」
「オッケイ。でも吉ちゃん、ゴルフ本当に上手くなってたなー。びっくりしたよ」
「竜ちゃんこそ、びっくりしたよ。俺たち、こんなに短期間の内にゴルフが上達するんだから、本腰を入れればすぐにシングルになれるかもね」
「俺もそう思うよ。今日練習に行く?」
「行く行く」
俺たちが話し込んでいると、事務所へ向ってくる誰かの足音が聞こえた。社長に違いない。吉川さんが再び「昨日の事は内緒ね」と念を押した。しばらくすると事務所のドアを開けて、社長らしき人が入って来た。吉川さんが俺を紹介してくれた。
「社長、こちらが図面を描いてくださった加納設計事務所の加納さんです」
「やあー、どうもどうも吉川です」
「加納です。よろしくお願いします」
社長も吉ちゃんと変わらないぐらい身長が高い。ここの家族は皆身長が高いのか・・社長から促され俺はソファーに腰掛けた。
「加納さん、パース見させていただきましたが、なかなか気に入りましたよ。西洋風で、私好みの建物ですわ。このまま図面の方を進めて行ってほしいんですが、問題は予算の方でね。専務から聞いていただいたと思いますが、最高で六千五百万までしかかけられないんでね。予算内で収まるようにお願いしたいんですけどね」
「判りました。でも入札形式を取れば、何とかいける数字だと思いますよ」
社長は幾分安心した様子だった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第74回

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それから続けて、
「設計料はどのくらい見とけばいいんですか?」
と聞かれた。俺は明確に設計料を算出していなかったが、通常の相場で、
「工事金の三パーセントをいただいています」
と答えた。すると社長は納得した様子で、
「判りました。ところで基本図面はいつ頃出来上がりますか?十一月に新しい店をオープンさせたいんでね。銀行借り入れ用に図面がほしいんだけど!」
と早速、具体的な図面工程について聞いてきた。
「基本図面で二週間、それから細かいところを何回か打ち合わせさせていただいて、実施図面で三週間ほどいただきたいんですが・・」
俺は具体的な日時は提示せずに、目安としてほしい図面工程だけを答えた。
「あー、それだったら十分、間に合いますね。それじゃ、お願いしますよ」
社長は笑顔でそれだけを告げると、俺に挨拶をし事務所を出て行った。やけに、あっけない打ち合わせに、
「社長、やけに忙しそうだね」
と俺は素直な感想を吉川さんに言った。
「いや、多分、これからゴルフだと思うよ」
俺の感想に対して吉川さんはそう答えた。
「へー、俺たちも練習に行こうか」
「うん、俺、ちょっとだけ用事があるから、午後三時ぐらいから行かない?」
俺は了解した。それから突然思い出したように彼は、
「あー、それとこの前言っていたトータリークラブの入会式が来月の九日だから、予定しといてね。昼の十二時からだから」
と言った。俺はすっかりトータリークラブへ入会する事を忘れていた。
「どんな服装で行けばいいの?」
「とりあえず、ネクタイ着用。でもそんなに堅苦しくないから大丈夫だよ。それと自己紹介があるから、言う事を何か考えておいた方がいいよ」
俺は行く事が何となく億劫な気がしたが、約束だから仕方ないかと思い直し、吉川さんに別れを告げると店の外へでた。表に出ると太陽の眩しい光が燦々と照りつけていた。こんないい天気の日にはゴルフをしなさいと神様が俺を誘っているような気がした。ゴルフ場が俺を呼んでいる。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第75回

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 久しぶりにネクタイを締めると首の周りが気持ち悪かった。特に蒸し暑くなってきたこの季節には、やけに首筋がべとつく。何の為に、この世にネクタイなんて存在しているんだろうとよく思う。俺はデイアルホテルの五階に来ていた。今日ここでトータリークラブの入会式があるようになっている。続々と会員らしき人たちが、会場の中に入場していってるが、吉川さんはまだ到着していなかった。知り合いのいない俺は、一人ぽつんとソファーに腰掛け、吉川さんを待った。そんな俺の姿を見て、受付をしていた事務局の女性の方が話しかけてきた。
「すみません。新入会員の方ですか?」
「はい、そうです。加納といいます」
「推薦人は何方でしょうか?」
「吉川商事の吉川専務です」
「あー、そうですか。それじゃ受付をしていただいて中へ入ってください」
俺は彼女から促されるまま、会場の中へ入った。誰も知っている人がいない。やっぱり堅苦しいじゃないかと思いつつ、俺は仕方なく入り口近くの壁際に立って吉川さんを待つ事にした。会場内も人でいっぱいになってきた。そのうちに定刻の時間となった。司会者の進行により何か訳の判らない歌を皆で歌いだした。俺は心細くて仕方なかった。歌も歌い終わる頃、やっと吉川さんが会場の中に入って来た。俺はほっとした。
「吉ちゃん、遅いぞ。俺、どうなることかと思ったよ」
「ごめんごめん、急にメーカーが来るもんだからさ。許して」
吉川さんは俺に頭を下げた。壇上では会長らしき人が挨拶を始めようとしていた。会長が話始めると、吉川さんが、 「会長の挨拶が終わったらさ、新入会員の紹介だから何を言うか考えといてね」
と言った。俺は急に緊張してきた。会長の話など上の空だった。会長の話が終わると、司会者が新入会員の名前を呼んだ。俺は三番目に呼ばれた。全員で五名の新入会員が入会するみたいだ。一人だけの入会でない事で、少々落ち着きを取り戻した。俺は簡単な自己紹介だけで話を終わらせた。終わってみると、それ程緊張をするようなものでもなかった。新入会員の紹介が終わり、俺たちが壇上から降りるとすぐに昼食会が始まった。バイキング形式になっていて、皆、それぞれに好きなものを皿の上に取ると、立ったまま食べている。椅子は窓際に二十脚ぐらいしか置いてなかった。椅子には六十過ぎの年配の人達しか座っていない。俺がきょろきょろと辺りを見渡しながら吉川さんの側で食事を取っていると、こちらの方へ向ってくる若い男性の姿が目に入った。彼は吉川さんの前に来ると、話しかけた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第76回

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「純一さん、久しぶりです」
「おー、大輔、生きてたか?俺、てっきり退会したと思ってたわ」
「失礼だな。スリーピングメンバーには違いないけど、頑張ってこうして来てるでしょ」
二人とも仲が良いらしい。
「大輔、紹介するわ。こちらは加納さん。今日から入会したからよろしくな」
吉川さんは彼に俺を紹介してくれた。
「どうも加納竜也です。よろしくお願いします」
「どうもこちらこそ宜しくお願いします。いつも純一さんの子守をしています久山大輔です」
「子守とはなんだよ。お前に友達がいないから俺が遊んでやってるんだろう」
二人の会話を聞いていると何となく楽しい気分になる。それから吉川さんは久山さんについていろいろと教えてくれた。
「大輔は久山米穀と言って、米の流通業をしているんだけど、このクラブでは最年少者。仕事はしているのか、してないのか判らないけど、ゴルフだけは上手いよ。ハンディー八だったっけ?」
「ゴルフだけとは失敬な言い方だな。そんな事を言うと、もうハンディーやらないぞ」
「大輔、何にも知らない奴だな。俺の事を昔のままだと思うなよ。今まで二十四ハンディー貰っていたけど、今度からショートホールぬきのエブリワンで十分だわ」
「と言う事は、ハンディーが十四で良いと言う事でしょ。本当かな?」
「だから十四で良いと言ってるだろ。そんなに疑うんだったら、ここが終わったら薄暮に行って勝負するか?」
「良いですよ。他、メンバー誰にします?」
「加納さんもゴルフするから・・竜ちゃん、ここ終わったら薄暮行こうよ」
俺は二つ返事で了解した。中山から高尾カントリークラブでゴルフを習って以来、俺も吉川さんも、また一段とゴルフが上達していた。あれから俺たちはハーフプレイにも十回ほど出かけていった。ハーフで五十打つ事は、よっぽどな事がない限りなくなっていた。吉川さんが、自信を持っているのも頷ける。