Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第69回

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最後に俺たちは中山のボールの所まで移動した。
「加納と純はここからは打たなくてもいいや。ゆかりちゃんはここから打ってみて」
ゆかりさんがスプーンを手に取ろうとすると、
「ゆかりちゃんは、何ヤードまでなら、ピンに寄せる自信があるかい?」
「百ヤードまでなら何とかなると思いますけど・・」
「それじゃ、わざわざスプーンで打つ必要もないんじゃないの。それで打つと下手したらグリーン手前のバンカーに入る可能性もあるよ」
彼女はにこっと笑うとスプーンからクリークに持ち替えた。ナイスショットだった。グリーンまで百ヤード付近のフェアーウエイでボールは止まった。続いて中山が自分のボールをバフィーで振りぬいた。ボールはグリーン手前、五ヤードぐらいに一旦落ち、一揆にグリーンを駆け上がっていった。ピン奥でボールは止まった。ナイスツーオンだった。中山が俺たちにガッツポーズをとって見せた。皆で拍手した。
 三打目はそれぞれに自分の所から、最初に打ったボールを打つ事にした。ゆかりさんだけが、グリーンまで百四十ヤード残した最初のボールと、二打目に打ったボールの両方を打つように中山が指示した。それぞれが三打目、四打目を打ち終わり、全てのボールがグリーン上に乗ると、そのボールはそのままにし、俺と吉川さんはバンカーに集まるように中山から言われた。違う状態で三個のボールがバンカー内に置いてある。一個は正常な状態で平たい所に、もう一個は靴後の窪みの中に、そして最後のボールは土手に三分の一ほど埋まっていた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第70回

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「今からこの三個の違う状態のボールを打って見せるから、参考にするようにな。まずこの平たい所のボールはこのようにフェイスを開いてボールの後ろから薄く砂を取り、振りぬく事。次にこの靴後の窪みにあるボールはフェイスを開かずに上から打ち込む事。最後にこの埋まっているボールはさっきよりもっと鋭角に打ちこむ事」
三個ともボールはピンの方向に近づいていった。中山は打ち終わると、俺たちに打ってみるように言った。俺たちは同時にバンカーの中へ入り練習した。中山の言うとおり打ってみると、ピンには近づかないものの、バンカーだけは脱出する事ができた。
「うん、それでいい。後はうちの練習場にもバンカーがあるから練習するようにな」
バンカーショットを打ち終わると、俺たちはパターを持ってグリーン上に上がった。まず初めに中山が打った。四メートルの下りのライン、カップインしなかったもののカップ先、十センチの所でボールが止まる。簡単にバーディーを取った。続いてゆかりさんも難なくカップまでボールを近づけイージーパーだった。ゆかりさんが打ち終わると中山が、
「パターを打つ時必要なことは、ボールとピンまでの入るラインに対して、真っ直ぐにストロークが出る事。それと距離感をイメージする事。最後に今ゆかりちゃんが打ったように一定のリズムを持って振る事。この三点だから、それだけを考えて打てばいい」
と教えてくれた。教えてくれたものの、なかなかそのように打てるものではない。イメージを出しすぎて二メートルほどオーバーしてしまった。理屈が判ってくるとかえってパターは難しくなるなと思った。
 こんな風にしていろいろと練習をしながらコースを回った為、ハーフプレイにも関わらず、クラブハウスに引き上げて来た時には、もうすでに午後六時を過ぎていた。でもいろんな事を教わり、有意義な一日だった。つま先上がり、つま先下がり、左足上がり、左足下がりでのスイングの仕方や、ディポットでの打ち方、逆目の芝でのサンドウエッジでの寄せ方など、その他にも数多く習った。本当に練習場だけでは判らない事がいっぱいあるものだ。俺と吉川さんは週に少なくとも二回はハーフプレイをしに来ようと約束した。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第71回

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 クラブハウスに着くと支配人が俺たちを待っていた。クラブハウスには俺たち以外にお客は誰も残っていなかった。
「いや、遅くなっちゃってすみませんでした」
中山が支配人にそう言った。
「いやいいですよ。まだクラブハウスを閉めるまでには時間がありますから」
普段なら、コース場で何発もボールを打ちながら練習して回る事など許される筈もないが、さすがに中山は県内のゴルフ場で顔が利くらしい。特にここの支配人とは相当、仲の良い間柄のようであった。帰り際にゆかりさんも中山にお礼を言った。
「本当に今日は有り難うございました。私もいろいろと勉強になりました」
「いや、今日はごめんね。こいつらに付き合わせちゃって」
「いいえ、私も楽しかったですわ」
俺もその会話に加わった。
「ゆかりさん、俺、もっと上手くなったら、また一緒に回ってくれます?」
「加納さんは今でも十分、お上手ですわ。いつでも誘ってください。時間の取れる時には、お供しますわ」
「えー、本当ですか?」
彼女は笑顔のまま、頷いてくれた。そんな中、中山が俺たちに水を差す。
「まあ、加納も純ももう少し上達してからだな。でないとゆかりちゃんに迷惑をかけるよ。ゆかりちゃんはお前たちと違って競技ゴルフをやっているんだからな」
彼女は笑顔のまま、黙って聞いていた。「よし、もっと上手くなるぞ」と俺は心の中で誓った。その後、中山は支配人と今から話があるからと言って支配人室へ消えて行った。俺たち三人はお互いにお礼を言うとクラブハウスを後にした。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第72回

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 次の日の朝、吉川さんからの電話で起こされた。ここ二日間、彼からの電話が目覚まし代わりになっている。午前十一時に大王店の方に来てくれと言う。社長もその時間に店の方に来るらしい。時計の針は午前九時を指していた。俺は昨夜久しぶりに夢を見た。昨夜というか、たった今まで夢を見続けていた。それはゆかりさんと二人だけでゴルフをしている夢だった。二人でゴルフカートに乗って心地よい風を受けながら、見詰め合っている。
廻りの景色も海は見えたし、空も限りなく澄み切っていて青かった。多分、日本ではなくてハワイか何処か、海外であったに違いない。俺がドライバーショットを打つと、三百ヤード、ボールが飛んでいった。そんな俺の姿をゆかりさんがうっとりとした表情で眺めていた。ドライバーショットを打ち終わった後に、クールな笑顔でゆかりさんの方を振り向くと、ゆかりさんはなんと水着姿だった・・
 折角、これからが良い所だったのに、電話の音で起こされてしまった。吉川さんからの電話でなかったならば、腹も立つところだが、仕事の電話でもあるし、仕方あるまい。俺は顔を洗うと、身支度を始めた。一通り準備が整うと事務所へ向かう。事務所に着くとパソコンに電源を入れ、パース以外の図面もプリントアウトした。その間に目玉焼きを作ってパンと一緒に食べた。図面をじっくり眺める。不備がない事を確認すると図面ケースを持って、ちょっと早い時間だったが事務所を出た。大王店に着くと、景品カウンターの所へ行って、専務がいるか店員さんに聞いてみた。彼は事務所の中にいるらしく店員さんが俺を事務所まで連れて行ってくれた。