Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第65回

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続いてゆかりさんがドライバーショットに入った。ゆかりさんはいざティーグランドで構えると、今までの優しい色気のある眼差しから真剣な眼差しに目つきが変わった。そこには誰も話しかけられないようなオーラが出ていた。彼女はドライバーをリズムカルに振りぬくと、ボールが着地するまでフィニッシュの形を崩さずにそのままの姿勢で前方を見守っていた。そのポーズと真剣な眼差しが、ものすごく魅力的に見えた。ボールも吉川さんの所より、少し前方にあった。
「ナイスショット」
と皆が声をかけた。最後に中山がティーショットに入った。中山はショットをする前に、コースの攻め方を俺たちに解説した。
「このロングホールは右ドッグになっていて、左側が比較的に広いからフェアーウエイ中央より左側を狙って打たないといけないな。三人のボールで言うと、ゆかりちゃんのボールがベストポジションで、あそこからだったら二打目もスプーンで打っても問題ないが、純と加納のボールの位置だったら、二打目はアイアンで刻まなければならない。俺の飛距離で言うと、俺のベストポジションはゆかりちゃんよりちょっと右側のあの杉の木の辺りかな。二打目を打つ時の事も考えてドライバーショットはしなくてはいけないと言う事を頭の中で考えてから打つようにな」
中山はそう言いながら、ドライバーを打つ体勢に入った。コマみたいに鋭い回転の元にボールは飛び出していった。真っ直ぐに打ち出されたボールは百五十ヤード付近で一旦加速されたように見えた。そして二百ヤード付近でまた更に加速するように見えた。まるで自動車でギアチェンジをしているように見える。ボールは杉の木へ向って真っ直ぐに飛んでいった。ボールはゆかりさんのボールより、五十ヤードほど先で止まった。皆、固唾を呑んで見ていた。俺と吉川さんは言葉も発する事ができなかった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第66回

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「いつ見ても凄いショットですわね」
とゆかりさんが言った。中山はゆかりさんの方を振り向き、
「公約どおりの所へボールが飛んでいって良かったよ」
と言って、にこっと笑った。四人は各々のボールの所へは向わずに、一番飛んでいない俺のボールの所へ集まった。全員にこの場所から打てと言う。俺のボールは少しつま先下がりの所で止まっていた。グリーン方向に向けてショートカットせずにフェアーウエイの方へ打てと指示された。距離的には百四十ヤードほどしかない。まず俺が最初に打つ。
「つま先下がりでボールが右の方へ出やすいから、加納と純は狙い目より左のほうを向いて打て。ゆかりちゃんは好きなように打っていいから」
俺が打つ前に、中山はそうアドバイスした。俺と吉川さんのボールは中山が言ったように狙い目より右の方へ飛び出していった。かろうじてフェアーウエイまでボールが届いた。
続いてゆかりさんがアドレスに入ったが彼女は俺たちみたいに極端に左の方を向かなかった。それでもボールは狙い目の方向へ飛んでいった。彼女が打ち終わった後、中山に聞いてみた。
「ゆかりさんの場合、なぜ右の方向へボールが飛び出さずに、真っ直ぐに飛んでいったんだい?」
「彼女の場合はまず傾斜に対して体を垂直に傾けてがっちりと動かないように固定しているよな。そしてフォロースルーを出来るだけ長くして目標方向へ真っ直ぐにクラブヘッドを押し出している感じかな。まあー大会へ行くと、こう言う所から打つ事もしょっちゅうだから、今までの経験でどんなボールが出て行くのか良く判っているのだろうけどな。ねー、ゆかりちゃん」
彼女はにこっと微笑んだ。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第67回

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続いて俺たちは吉川さんのボールのある場所へ移動した。この場所も右の林が邪魔になってアイアンで刻まなければならなかったが、ライは平坦でアドレスには支障のない所だった。俺たち三人は続けて打った。俺の場所から打ったショットより皆二十ヤードほど飛んでいる。打つ場所によって、こんなにも飛距離に差がでるのかと思った。今度は中山もここからショットした。でも俺たちみたいに刻むのではなくて林越えで打つと言う。
「この場所からショートカットする場合、最低二百二十ヤードダイレクトに打たないと、フェアーウエイまで届かないと思うけど、林の木が高すぎてクリークであの高さまで上がるかどうか・・俺にとっても冒険だけど打ってみるな」
中山はそう言って打って見せた。ボールは高い弾道を描き、林の上ぎりぎりを超えていった。ゆかりさんが聞いた。
「中山プロ、私だったら幾ら頑張ってもクリークではあの高さは出ませんけど、どうやって打ってらっしゃるのですか?」
「払い打ちしたら絶対にあの高さはでないから、二番アイアンみたいに打ち込むのさ。そしてフォロースルーの限界までタフを取るような感じかな」
中山が打った後を見てみると、フェアーウエイの芝が三十センチほど削り取られていた。余りにも高度なテクニックに真似をしてみようとも思わなかった。俺はただただ感心するのみだった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第68回

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続いてゆかりさんのボールの所へ移動した。まずゆかりさんがスプーンで打つ。ナイスショットだった。
「ナイスショット、あの位置からなら、次、八番か、七番アイアンで打てるね」
と中山が言った。俺たちも続けてスプーンで打った。二人ともトップ気味に低いボールで飛んでいった。ボールは二人ともラフで止まっていた。
「スプーンの場合、ドライバーショットとほとんど打ち方は変わらないけど、ティーアップをしない分、体が上下しないように十分に気をつけないとな。それじゃ、お前たち二人は今度は一番距離が出て得意なアイアンで打ってみろ」
吉川さんは五番アイアンで打った。ナイスショットだった。ボールは先ほどトップったスプーンの飛距離と変わらない所まで飛んでいき、フェアーウエイで止まった。俺は四番アイアンを手にした。俺が打とうとして四番アイアンを構えていると、
「おい、加納、そのアイアン、シャフトが曲がっていないか」
と中山が聞いた。
「あー、この前、素振りしている時に、家の樋にぶつけてしまってな」
「ちょっと見せてみろ」
俺は中山に手渡した。
「おー、よく曲がってるわ。これじゃ打てないな。この前のコンペの時にシャンクが出たのも当然だな。もう修理するまで、このクラブは使うな。五番アイアンで打ってみろ」
中山はそう言うと四番アイアンを俺のゴルフバックに仕舞い込み、その代わり、五番アイアンを手渡してくれた。俺はそれを受け取りボールを打った。これもナイスショットだった。吉川さんのボールの真横でボールは止まった。
「これで二人とも判っただろ。ロングホールの二打目は、必ず、飛距離が出て自分の一番得意なクラブで打った方がいいぞ。一番距離の出るスプーンでもトップったり、ダフったりしたら、飛ばないんだからな。それにラフに行ったら、三打目を打つ時に苦労するしな」
中山の言う事は理論的で判りやすい。