Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第61回

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 クラブハウスに着くと、中山とゆかりさんがソファーに腰掛け、雑談をしていた。俺と吉川さんの顔を見るなり、中山が俺たちに手を振った。
「おー、これで全員揃ったな。ちょっと俺、支配人に挨拶してくるから、ここで待ってて」
中山はそう言うと、ソファーから立ち上がり、支配人室へ入って行った。
「ゆかりさん、久しぶりです」
俺は彼女に挨拶した。彼女は今日は淡いグリーンのアダパットの服にベージュのキロットパンツを身に着けている。頭には真っ白なキャロウエイの帽子をかぶっていた。いつ見ても、この色気のある彼女の姿には悩殺される。
「こんにちは、加納さん。大分、腕を上げられたみたいですね。中山プロから聞きましたわよ」
「へー、あいつ、そんな事を言ってましたか?」
俺は内心、中山が俺の話題を持ち出してくれた事が嬉しかった。ひょっとしたら、あいつが俺たちの愛のキューピットになってくれるかもしれない。続いて彼女は吉川さんに話しかけた。
「いつも吉川社長にはお世話になっています。この頃、お会いしていませんけれども、お元気にしてらっしゃいますか?」
「えー、もうすぐ、九州アマや県民大会が始まりますから、ゴルフ三昧ですよ」
「それじゃ、また県民大会でお会いできますわね。よろしく言っといてください」
「伝えときます」
俺たち三人が話をしていると、中山が支配人室から出てきた。
「今日の最終組が午後二時半に回るそうだから、その後から回るぞ。その方がいろいろと練習できるからな。それじゃ、アプローチとパターの練習でもするか」
俺たちは中山に促され、練習グリーンに向った。練習グリーンに着くと、中山からパター、サンドウエッジ、アプローチウエッジ、そしてピッチングウエッジを持ってくるように言われた。俺はアプローチウエッジを持っていなかったので、とりあえず九番アイアンを持っていった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第62回

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 俺たちがクラブを持って集合すると中山は、
「俺、こいつらにアプローチの仕方を教えるから、ゆかりちゃんは勝手に練習してて」
と彼女に言った。
「加納と純は、ここからサンドで五球、アプローチで五球、そしてピッチングで五球、ピンに向けて打ってみろ。加納は、アプローチを持ってないから、俺のを使え」
中山はそう言って、グリーンエッジから五メートルぐらい離れた所から寄せの練習をさせた。俺たちが全て打ち終わると、
「どうだ、どのクラブが一番寄せやすい?」
と聞いた。俺はサンドウエッジが一番寄せやすかった。吉川さんはアプローチウエッジが一番寄せやすかったみたいだ。
「それじゃ、お前たちは今度からこの距離から寄せる時には、そのクラブ以外は使うな。そして、そのクラブに対して絶対的な信頼を寄せろ。スコアーをまとめる為には、寄せとパットが命だからな」
「練習を始める前に、サンドの打ち方と、アプローチの打ち方を教えてあげるから、よく見とけよ。まずサンドもアプローチもこの距離からだったら、パターみたいに絶対に体が動かない事が一番で、その次にインパクトの瞬間までボールから目を決して離さないこと、
そしてその時に力を緩めることなく、インパクトをしっかり打つ事。距離感は振り幅で調整すると楽だな。後は何球も打って距離感のイメージを掴む事。余りイメージを出しすぎると、ヘッドアップしてしまって、シャンクする事があるから、ちゃんと打ち終わるまで顔は決してピン方向を振り向くな。基本的にはそれぐらいかな。それじゃ、打って見せるから、参考にしろよ」
中山はそう言ってサンドウエッジとアプローチウエッジを打って見せてくれた。三球ずつ打って見せてくれたが全てのボールがピンに絡んでいった。俺は凄いなと思いながら、自分でも練習を開始した。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第63回

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 今まで遠くへ飛ばすクラブばかり練習してて、寄せのショットなど余り重要視していなかったが、いざ練習してみると、なかなかピンに近づいていかない。中山が俺の練習を見てて、
「お前の打ち方はリズムが悪いなー。全てのショットはリズムを掴まないとな」
と言った。自分でも体を固定しすぎて、手だけで振っているような気がした。俺は体を固定しつつも、ある程度、腰でクラブを送ってやるイメージで振ってみた。なかなかいい感じだった。ボールもふわっと高く上がりだした。次第にボールもピンに近づいていくようになった。中山も俺の方を見て、「それでいい」と言ってくれた。
 俺はある程度、寄せショットのリズムを掴み出すと、ゆかりさんの練習風景にちょっと目をやった。彼女はグリーンエッジから十メートルぐらい離れて練習をしている。ボールはピンに向けて極端に高く上がり、ピン付近でぴしゃっと止まっている。明らかに俺たちが練習しているボールと違っていた。俺たちのボールは転がしてピンに近づけようとしているのに対して、彼女のボールはピン付近でボールを止めている。俺は中山に聞いてみた。
「今、ゆかりさんが打っているボールはどうしてピン側でボールが止まるんだい」
「あーあれは、ロブショットっていってな。フェースを思い切って開いてアウトインにこうやって振るんだよ。でもお前には未だ無理だから、練習しない方がいい」
「どんな時に使うショットなんだい?」
「ピンがグリーンエッジに近い所にあって、しかも先が下りのラインになっている時によく使うな」
「それじゃ、俺も練習しないといけないじゃないか」
「お前の場合、まずそんな所に打ち込まない事を考えろ。そして不運にもボールが行ってしまった時には、寄せる事をあきらめてスリーパットしない事だけを考えるんだな。ロブショットは八十代を確実に出せるようになってから、練習すると良いよ」
俺はその時には、なぜロブショットを今の段階で練習したらいけないのか判らなかったが、中山の言う事だから間違いないなと思い、今やっている寄せのやり方だけを練習する事にした。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第64回

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 そうしている内に、支配人がクラブハウスの裏玄関に現れて、
「中山プロ、そろそろスタートしていいですよ」
と大きな声で呼びかけてきた。中山は支配人に手を上げて応答した。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
俺たちはアウトの一番ホールへ向った。一番ホールに着くと、青マークがしてあるバックティーから回る事になった。
「加納も純もシングルを目指すんだったら、ここから打つ練習をしないとな。ゆかりちゃんはちょっと遠いけどバフィーやスプーンの練習にもなるし、今日は一緒にここから回ろうか」
「はい判りました」
 まず初めに吉川さんからティーショットを打つ事になった。ドライバーを構えた形に何となく余裕を感じる。この前のようにクラブヘッドも小刻みに動いていない。そしてクラブを振り上げるとリズムカルに振りぬいた。ナイスショットだった。飛距離もこの前より格段に伸びている。
「ナイスショット」
皆が声をかけた。続いて俺の打つ番だ。俺がドライバーをクラブバックから取り出すと、
「あら、加納さん、ドライバー替えたんですね」
とゆかりさんが話しかけてきた。
「えー、でもゆかりさんの言うように、このドライバーに替えて良かったと思いますよ。替えてから飛距離も伸びましたしね」
俺はそう言うと、練習した通りに振りぬいた。ボールを確実に捕まえる事ができず、少々スライス気味にボールは飛んでいったが、前回のゴルフ場でのナイスショットの時よりも、ボールは遠くへ飛んで行っている。ナイスショットとは言えなかったが、
「大分、飛距離が伸びたな」
と中山が声をかけてくれた。