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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第57回

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 次の日、事務所へ入ると、至る所に昨日描いたイメージプランが散在していた。立ったまま、りんごを齧りながら眺める。俺は気に入った三枚のイメージプランを手に取ると、吉川さんのパチンコ屋さんへ向けて車を走らせた。昨日と同じ川沿いの場所で、車を止めた。今日はそのイメージプランに全体の風景を写生していくつもりだ。幸いにも空は晴れ渡っていた。このプランにぴったりの空模様だ。俺はまず、写生を始める前に、パソコンに取り込む為の写真を撮った。いろんな角度から連続的に写真を撮っていく。写真を撮り終わると、風景の写生に入った。でも描き進めていくうちに、デッサンされた建物と周りの風景との間に何となく違和感を持った。昨日、雑誌で見たような自然と一体化した雰囲気がない。やけに建物だけが孤立して見えた。どこに違和感を持つのか、じっくり考えてみた。雑誌でみた地中海のカフェバーは、その周りの環境全てが自然であり、無機質な物体が無いことが判った。今、俺の目の中に写っている風景には、電柱はあるし、自動車整備工場はあるし、そして何よりも小さな古ぼけた建物が散在していて視界が悪い。雑誌で見た風景は、どこまでも視界が広がり、どこまでも続く整然として自然と溶け込んだ建物の先に青い海と青い空が広がっていた。今のイメージプランに違和感を持つのも当然かもしれない。俺は周りの風景を描き終わると、建物自体に、無機質な部分も織り込む事にした。現プランでは入り口の庇の部分が西洋風の瓦になっていたが、その部分をパラペットと併用して、前面に白の大理石を貼ることにした。パラペットも大きく楕円形に建物から前面に飛び出させ、正面から見える部分も三メートルの高さにする。躯体の鉄骨で構造的に持たない部分には、鉄骨の柱を立てればいい。地中海風建物に無機質な部分を取り入れると、さっきまで感じていた違和感が消えた。その完成させたイメージプランをじっくり眺め、自分でも納得がいくと、車を事務所へ向けて走らせた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第58回

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 事務所に着いたのは午後三時だった。考えてみると今日は朝からりんごしか食べていない。俺は鍋にお湯を沸かし、インスタントラーメンを作ることにした。そしてパソコンに電源を入れた。これからこのイメージプランを仕上げていかなければならない。まず初めに先ほど取ってきた風景の写真をパソコンの中へ取り込んだ。建物の縮尺に取り込んだ写真の縮尺を合わせていく。夢中で作業していると、お湯が沸騰して鍋から噴出した。俺はコンロの火を弱火にし、インスタントラーメンを二つ投げ込んだ。ラーメンが出来上がると、どんぶりには移さず、鍋の柄を持って食べた。パソコンの画面を見ながら食べていたら、熱く加熱された鍋に直接唇が触れ、もう少しでラーメンの汁をパソコンの上に零すところだった。どうも二つの事を同時にこなすのが苦手だ。俺はまず食べる事に集中した。お腹が空いていたせいか、インスタントラーメンでも美味しかった。二食分も食べたおかげで満腹になった。お腹も満たされた所で、早速、本腰を入れて図面作業に取り掛かった。イメージプランの建物をパソコンの中に描いていく。三次元のパソコンの操作に慣れていないせいか、随分と手間取った。仕上がったのは午後八時だった。今日はゴルフの練習に行けないなと思いながら、次の作業に移る。描いた三次元の建物を先ほど呼び込んだ周りの風景写真の中に落とし込む。これで全体のレイアウトが完成だ。しかしこれからの作業が一番大変だ。建物に色をつけていかなければならない。陰影、遠近、全てを考慮して仕上げなければならない。この仕上げ作業によって、同じ建物でもイメージが全然違ってくる。デザイナーのセンスが問われる部分だ。俺は丹念に作業を続けていった。作業を続けていくうちに、またもやお腹が空いてきた。時計を見ると夜中の二時だった。冷蔵庫の中を覗いてみる。牛乳が一本入っているだけで、他に食べ物らしいものが何にも無い。俺は仕方なく再びインスタントラーメンを作って食べる事にした。お腹は空いていたけれども、今度は余り美味しいとは思わなかった。逆にやけに胃がもたれるような気がした。麺だけ食べ終わると汁は全て捨てた。用心の為、とりあえず胃薬を飲んだ。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第59回

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 図面作業の方は、明け方が近づくにつれ、何とか形になってきた。後残っている作業は、周りの風景写真が余りにもくっきりとしていて、建物との間に違和感があるので、少々ぼかしていくだけだ。それから二時間ぐらい作業を続けていっただろうか?ついにイメージプランのパースが完成した。窓ガラスの明かりを遮ったブラインドの隙間からこぼれ日が射している。どうも夜が明けたらしい。時計の針は午前八時を指していた。俺はそのままソファーに寝転がった。そして夢見つつ、うつらうつらしている所にうるさく鳴り響く電話のベルで叩き起こされた。俺は朦朧とした意識の中、ソファーの横に置いてある電話を無言で取った。吉川さんからの電話だった。
「もしもし、加納設計事務所ですか?」
「おー、吉ちゃん、おはよう」
「おはようじゃないよ、竜ちゃん、もう昼だよ。どう?高尾カントリークラブへ行く前に、昼飯でもいかない?」
「いいけど、俺、今この電話で起きたから、後一時間ほど準備するのにかかるよ」
「オッケイ、じゃあ午後一時に中山ゴルフ練習場の斜め前にある久留米ラーメンでどう?」
「ラーメンだけは勘弁して!寿司食いに行こう。吉ちゃん所の近くにある回転寿司。あのー、名前、なんて言ったっけ?」
「よさこい寿司かい?」
「そうそう。そこに午後一時」
「判った、いいよ。それじゃ後で」
電話が切れた。昼飯までラーメンでなくて良かった。俺はパソコンの中にあるパースをプリントアウトする事にした。今日、吉川さんに見てもらわなければならない。しかし うちに置いてあるプリンターはインクジェットのもので、三枚プリントアウトするのに、三十分ほどかかる。俺はゴルフの準備と着替えをする為に、一旦、自宅へ帰って来る事にした。自宅に着くと、風呂のお湯の蛇口を全開にした。風呂のお湯が溜まるまで、髭を剃る。今日のゴルフには池田ゆかりさんも来るので、彼女だけには汚い格好は見せられなかった。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第60回

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風呂に入ると体を丹念に洗った。それから歯も磨いた。自分の体の全てを清めると、バスタオルを腰に巻き、鏡の前に立った。ウエストの回りに少々、贅肉が付いてきているが、依然としていい体をしている。俺はナルシストか・・コロンを手に取り体に塗りつけた。服を身に着けると、身も心もしゃきっとした。なんかゴルフに行くというよりも、ゆかりさんとデートに出かけるような気分だった。あっという間に三十分が経過した。俺は急いで、自宅を出ると事務所へ向った。事務所ではイメージパースがもうすでにプリントアウトされていた。俺はそれを図面ケースにいれると、吉川さんとの待ち合わせの場所へ向った。
 寿司屋には吉川さんはもうすでに到着していた。
「ごめんごめん、遅くなっちゃって」
「いや、俺も今来たところだから」
二日間会っていない間に、吉川さんも相当、ゴルフの練習をしたらしい。俺たちは、寿司の乗った皿を物色しながら、ゴルフの話に花が咲いた。
「俺、見違えるほど、ゴルフが上達したような気がするよ。ゴルフが判ってきたね」
吉川さんがそう言った。
「へー、誰からか教わったの?」
「うちの社長が付きっ切りで二日間、教えてくれてね。ゴルフの飛ぶ原理が判ったね。スイングも綺麗になったよ」
「俺も中山からいろいろ教わって、大分上達したよ。今日のゴルフがお互い楽しみだね」
「そうそう、それと吉ちゃん所のイメージパースも仕上がったよ」
「へー、見せて、見せて」
俺はカウンターの下に置いていた図面ケースからパースを取り出し、吉川さんに見せた。
「おー凄いね。うちのパチンコ屋も変われば変わるもんだね。西洋風だけど、今までのパチンコ屋さんには無い雰囲気があるから、良いんじゃない。これ貰っていいの?」
「あーいいよ。その為に持ってきたんだから。二部持ってきているから、二部とも持って帰って」
「それじゃ、今夜、社長にも見てもらうから。明日、午前中にでも社長を交えて打ち合わせしようか?」
「オッケイ、それじゃ明日の打ち合わせ時間を後から教えて」
俺たちは寿司を食べ終わると、高尾カントリークラブに車を走らせた。今から行くと、丁度、午後二時ぐらいに着くだろう。