次の日、事務所へ入ると、至る所に昨日描いたイメージプランが散在していた。立ったまま、りんごを齧りながら眺める。俺は気に入った三枚のイメージプランを手に取ると、吉川さんのパチンコ屋さんへ向けて車を走らせた。昨日と同じ川沿いの場所で、車を止めた。今日はそのイメージプランに全体の風景を写生していくつもりだ。幸いにも空は晴れ渡っていた。このプランにぴったりの空模様だ。俺はまず、写生を始める前に、パソコンに取り込む為の写真を撮った。いろんな角度から連続的に写真を撮っていく。写真を撮り終わると、風景の写生に入った。でも描き進めていくうちに、デッサンされた建物と周りの風景との間に何となく違和感を持った。昨日、雑誌で見たような自然と一体化した雰囲気がない。やけに建物だけが孤立して見えた。どこに違和感を持つのか、じっくり考えてみた。雑誌でみた地中海のカフェバーは、その周りの環境全てが自然であり、無機質な物体が無いことが判った。今、俺の目の中に写っている風景には、電柱はあるし、自動車整備工場はあるし、そして何よりも小さな古ぼけた建物が散在していて視界が悪い。雑誌で見た風景は、どこまでも視界が広がり、どこまでも続く整然として自然と溶け込んだ建物の先に青い海と青い空が広がっていた。今のイメージプランに違和感を持つのも当然かもしれない。俺は周りの風景を描き終わると、建物自体に、無機質な部分も織り込む事にした。現プランでは入り口の庇の部分が西洋風の瓦になっていたが、その部分をパラペットと併用して、前面に白の大理石を貼ることにした。パラペットも大きく楕円形に建物から前面に飛び出させ、正面から見える部分も三メートルの高さにする。躯体の鉄骨で構造的に持たない部分には、鉄骨の柱を立てればいい。地中海風建物に無機質な部分を取り入れると、さっきまで感じていた違和感が消えた。その完成させたイメージプランをじっくり眺め、自分でも納得がいくと、車を事務所へ向けて走らせた。
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