Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第49回

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「うん、だいぶスイングが綺麗になった気がする。それでいいんじゃない」
「へーそう、判った。有り難う」
俺は今振ったイメージを忘れないように、何回もそのままの姿勢で素振りをした。体にそのイメージが残ったなと思えるようになるまで、十分ぐらい振り続けた。そして何となくその振り方でリズムが掴めるようになると、ボールをセットして振ってみた。何回打ってもボールが真っ直ぐに飛んでいかない。しかもボールの勢いが以前にも増してなくなっている。明らかにパワー不足と言う感がある。それでもゆかりさんから教わった事を、ただひたすら信じて無心でボールを打ち続けた。一時間ほど打ち続けただろうか?ボールが真っ直ぐに飛んでいかない原因が判った。それはテークバックが小さい為に、潜在意識の中にパワー不足を感じ、テークバックからクラブを振り下ろす時に力が入り過ぎて体が微妙にぶれていた。テークバックから体がぶれない事だけを考えて振り下ろすと、ボールは真っ直ぐに飛んでいくようになった。でもボールは益々飛ばないようになった。あっという間に二百球入っていた、かごのボールを打ちつくす。再び、二百球入ったかごを取りに行く。そのかごを持って自分の場所に帰ってくると、吉川さんも全てのボールを打ち尽くしていた。
「竜ちゃん、まだ練習するの?」
「うん、どうも未だショットに納得がいかなくて。吉ちゃん、ちょっとだけ見ててくれる」
俺はそう言うと、七番アイアンでボールを打って見せた。やっぱり飛ばない。
「どう思う?なんでボールが飛ばないんだろう」
「うん、スイングは大分綺麗になったような気がするけどな・・なんかパワーを感じないね。女性がスイングしているみたい」
「でもね、力を入れてしまうと体がぶれてしまうんだよね」
「俺には判んないや。だって竜ちゃんと余りレベルの差は無いしね。後から中山プロに聞いてみたら!」
「そうするわ。俺、中山がゴルフ教室終わるまで、もう少し練習して帰るわ」
「それじゃ、俺、先に帰るね」
吉川さんはそう言うと帰る準備を始めた。俺たちは明日と明後日は別々の時間にゴルフの練習をする事にした。金曜日までに、たたきの図面を仕上げる為に、明日からの二日間は夜、遅くまで図面作業に時間が取られる事が予想された。吉川さんは後片付けが終わると、練習場を出て行った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第50回

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 俺は彼が帰った後も、ただひたすら打ち続けた。追加で持ってきたかごの半分ぐらいを打ち終わった頃に、中山もゴルフ教室が終わった。中山は俺の所に近づいてきた。
「おい、加納、やけに頑張って練習してるじゃないか」
「俺、ちょっとスイング見てほしいんだけど。さっきゆかりさんから習ったスイングで振ると一段とボールが飛ばなくなっちゃって・・」
「見てやるから、一球打ってみろ」
俺は七番アイアンで打って見せた。真っ直ぐは飛んでいくがやっぱり飛ばない。
「でもスイングが大分綺麗になったじゃないか」
「でも何でボールが飛ばないんだろうな」
「加納、お前、アメフトでクオーターバックやっていたんだろ。頭の位置と体がぶれないようにして、ノンステップでボールを遠くへ投げろと言われたら、どうやって投げる?」
「そりゃ、腰の回転と手首のスナップで投げるしかないな」
「そうだろ、ゴルフも全く同じだぜ。お前の七番アイアンを貸してみろ」
中山はそう言って打って見せた。ボールは百七十ヤード付近まで飛んでいった。俺のボールが飛ばない原因はクラブのせいじゃないらしい。
「いいか、テークバックのトップの位置もお前と一緒ぐらいだろ。要するにお前の打ち方は手だけで振っているんだよ。やはり体の回転とクラブヘッドが鞭のようにスナップがきかないとヘッドスピードは上がらないんだよ。自分のスイングと何処が違うか、感じがつかめるまで打ってやるから、自分の目で掴め」
それから中山は立て続けにゆっくりと打ってくれた。ゆっくり、軽く振っているのにやっぱりボールは百七十ヤード付近まで飛んでいく。十球ぐらい打ってくれたところで飛ぶ秘訣が何となく判ったような気がした。テークバックのトップの位置から切り返す時に、腰の回転から始動する。そして右足から左足に体重が移動しているのだけれども、頭の位置は全く動かない。よって体は弓なりにしなっている。体がしなりきって、初めてクラブが始動している。体の回転とクラブの動きに若干のずれがあった。体の回転によって蓄積されたパワーが一揆にクラブヘッドに伝わっているような感じだ。そしてクラブヘッドがボールを鞭のように弾いている。弾いているのだけれども、点で打っているのではなく、クラブフェースの面でボールを長く押しているように見えた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第51回

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「中山、何となく判ったような気がするよ」
「そうか、それじゃ振ってみるか」
中山から七番アイアンを受け取ると、俺はボールを今頭の中にあるイメージだけで振ってみた。ボールは右の方にシャンクした。けれども中山は、
「そうだ、そのイメージだ。今、シャンクしたのは体の回転が速すぎて、体の開きが早くなりすぎたのが原因だから気にするな。もう一球打ってみろ」
もう一球、イメージだけで振ってみる。今度はダフってしまった。
「今のは体の開きを抑えようと、頭を残しすぎて、上下にぶれてしまったな。でもイメージは全然悪くないぞ」
俺は中山に煽てられながら、その後、立て続けに打った。中山は忙しいのにずっと見ていてくれた。そして残り球も少なくなりかけた時、無心で振り下ろされたクラブがスコーンと気持ちよく振りぬけた。今までに一度も感じたことのない感触だった。打ち出されたボールは高い弾道を描いて真っ直ぐに飛んでいった。
「おい、加納、今のは百六十ヤード飛んでるぞ!今の感触を忘れるな」
俺もびっくりした。でもこれが飛ぶ秘訣だと直感的に感じた。
「おー、すごいな。何となく判ってきたぞ」
「一球だけ打てたからといって、調子に乗るな。今のショットがどれだけの確率で打てるかが、ハンディーの違いなんだからな」
その後、かごの中のボールを全て打ち尽くすまで練習したが、素晴らしい打球はあの一球だけだった。しかしボールは確実に飛ぶようになった。俺は中山にお礼を言った。そしてドライバーを買い換えたいと相談した。
「ところで俺、キャロウエイのドライバーに買い換えたいと思うんだけれど、何か安くていい奴置いてある?勿論中古でいいんだけど」
「だから今持っているクラブを買う時に言っただろ。でもクラブに関心を持ちだした事は良い事だ。それじゃ、見に行ってみるか」
身の回りの片づけを済ますと、俺と中山はロビーへ向った。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第52回

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「キャロウエイのドライバーの中古は今の所これしか置いてないな」
「それいくらするの?」
「三万だけど、お前だから二万五千円でいいや」
「二万円にしてくれよ」
「本当にお前も貧乏人だな。その代わり新品買うときには、絶対に俺の所で買えよ」
「判った。本当にお前っていい奴だな」
「だめだめ、煽てたってもうこれ以上安くならないぞ」
「そういう意味じゃなくって、本心からそう言っているんだから」
「それはそれはどうも有り難う。でもこのクラブ、ビッグパーサの十一度だから、今のクラブからしたら弾道も高く、確実に二、三十ヤードは飛ぶぞ!明日も明後日も練習に来い」
「はいはい、そのつもりです」
俺は現金で二万円を支払うと、中山に別れを告げ、練習場を後にした。帰り際にライトアップされたアプローチの練習場を覗いてみたが、池田ゆかりの姿はなかった。もう帰ったのだろう。腕時計の針を見てみると、午後十時を指していた。正味、四時間も練習していたことになる。大学時代の部活並みの練習量に自分でもびっくりした。若葉の香りが漂う春の風に心地よさを感じながら、俺は自宅へ向った。
 次の日朝起きてみると、腕や腰など、体中のあちこちが筋肉痛で痛かった。俺も柔な体になったもんだ。俺は顔を洗い、着替えを済ますと事務所へ向った。途中でコンビニに立ち寄り、朝食を買い込む。事務所に着くと、パソコンに電源を入れ、買ってきたおにぎりをほおばった。パソコンが立ち上がるとインターネットで新聞サイトにアクセスした。一通り昨日の出来事に目を通す。自分の興味を誘うニュースは余りなかった。それから昨日描いたところまでの図面を開いた。平面図と立面図は描き写されていたが、構造図がまだ三分の一しか終わっていなかった。早速、構造図の描き写しにかかった。手を休めることなく集中して描いたが、仕上がるのに午前中いっぱいかかってしまった。その後、昼食も取らずに、平面図の修正にかかった。今回の増築部分を平面図に描き足していく。新しい平面プランは二時間ほどで仕上がった。ここからが新しい発想を必要とする作業だ。平面図と三十分ぐらい、にらめっこをしたが画期的なプランは浮かんでこなかった。俺は頭の中をリフレッシュする為に、行きつけの喫茶店へ向った。