Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第41回

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 表彰式では久保田さんは二位の賞品として電子レンジを、吉川さんはキャディーバックを貰った。俺も飛び賞として炊飯器を貰った。事務所にも炊飯器が一つほしいと思っていたところだったんで丁度良かった。全ての賞品と参加賞を配り終わると、表彰式の最後に優勝者の挨拶があった。
「本日は、メンバーにも恵まれ良い成績を収めることができました・・」 俺は優勝者の弁を聞きながら、俺たちの組には最悪の人間が一人いたなと思った。優勝候補の筆頭だったそうだが、四十一位でいい気味だ。今日のラウンドを振り返っただけでムカついた。頭の中でいろいろと今日の事を回顧しているうちに、いつの間にか挨拶も終わり、解散となった。吉川さんが、
「それじゃ、うちの店に行きましょうか」
と声をかけた。俺は久保田さんにお礼と別れを告げると、吉川さんと一緒にクラブハウスを出た。吉川さんの車の後をついて行く。四州カントリークラブから十五分も車を走らすと、川沿いにパチンコ屋さんが見えてきた。建物自体、軒高も低くてかなり古い。もう二十年ぐらいは経っているのだろうか?駐車場に車を止め、建物の周囲を一周回ってみる。構造は鉄骨造の寄棟になっていて、倉庫の建物によく見られるコストのかからない工法だ。壁面はサイディングにリシンが吹き付けてあった。近頃のパチンコ屋さんの建物は石貼りかアルポリックみたいな化粧鉄板で外壁が仕上げられている。この目の前にある昔懐かしい建物を見て誰しも改装したいと思うのは当然の事だろう。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第42回

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 俺は吉川さんからどのようにしたいと言う要望を聞き終わると、事務所の中へ通された。事務所の一番奥に社長室があった。社長室の中へ入っていくと壁面棚の上にゴルフのトロフィーがいっぱい飾られてある。
「吉川さん、社長は相当ゴルフがうまいみたいだね」
と俺は現在の建物の建築図面を探している吉川さんの背中越しに話しかけた。
「うん、社長のゴルフのハンディーはゼロだから。県内ではトップアマだよ。多分、今日も何処かでゴルフしていると思うよ」
「へー、じゃ吉川さんも社長からゴルフ習えば良いのに。だって親子なんでしょ」
吉川さんは建築図面を片手ににやっと笑いながら俺の対面に座った。
「実は俺、養子なんです。社長がしょっちゅうゴルフをしているからと言って、俺も同じようにとはいかない訳。それに社長はゴルフで事務所にいないことが多いから、俺が面倒見ないとね」
「そうか、吉川さんも辛い立場だね」
「はい、これが建築確認申請した時の図面一式」
俺はその中から平面図を広げ、先ほど外で打ち合わせした内容を再度、確認した。まず道路側へ百五十平方メートル増築をする。そして軒高を現在の五メートルから八メートルまで高くする。内部のパチンコ台のレイアウトはもうすでに出来上がっていたので、制約らしいものとしては、この二点だけだった。後のデザイン的なものは全て俺に任せるという。
俺は今回の改装に際して予算をどのくらい組んでいるのか聞いてみた。
「予算は安ければ安いほどいいけど、最高にかけられて六千五百万までかな」
俺は事務所の部分と屋根だけを残して、その他の部分は鉄骨以外、全て解体する事を提案した。そして外回りの鉄骨だけを八メートル立ち上げて、既存の屋根を隠してしまおうと思った。そうしないと基礎までいじっていたらとても予算内で収まりそうも無い。吉川さんは俺の提案に対して了承してくれた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第43回

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俺たちは基本的な事だけを確認すると、仕事の話は打ち切り、今日のゴルフの話に話題を移した。
「でも吉川さん、三位っていうのはすごかったね」
「うん、でもハンディー三十六だからね。あんまり自慢にはならないかも」
「俺、これから本気でゴルフ練習しようと思っているんだけど、一緒に練習しない?」
「俺も練習したいんだけど、何かの口実がないと、なかなか店を離れられなくてね」
「それじゃ、改装の打ち合わせで俺の事務所へ行くといえば良いじゃん」
「それは良いアイデアだね」
「よし、決まった」
二人はお互いシングルになるまで、ゴルフの練習を続けることを誓い合った。
「その代わりと言ったらなんだけど、トータリークラブに入らない?市内の社長さんばかりだから、いろいろと営業にもなるかもよ」
「いいけど、入会金とかあるんじゃない?」
「年間で十五万、実を言うと今、会員拡大月間で入会してくれると俺の顔が立つんだけどな。俺、その担当委員会のメンバーなんだよね」
「じゃ、吉川さんの顔を立てて入会しますか」
俺は二つ返事で快く入会することを了解した。俺にこの田舎で初めて大きな仕事の依頼をしてくれた、言うならば大恩人である。 「本当?有り難う。俺、皆から吉ちゃんて呼ばれているから、これからは俺の事を呼ぶときには吉ちゃんでいいよ」
「じゃ、俺のことも、竜ちゃんでいいですよ」
二人とも何となく馬が合った。俺たちは明日から毎日、夕方、ゴルフの練習をする事と、トータリークラブに入会する事を約束し別れた。



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アマゴルファー 加納 竜也は 今日も行く 第44回

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 次の日、俺は朝早く事務所へ出向いていくと、早速、図面を描く準備に入った。本棚に並んでいる商店建築と新建築の本を読みあさる。しばらく図面を描く事から遠ざかっていたせいか、新しい発想が浮かんでこなかった。とりあえず昨日預かってきた建築図面を見ながら平面図、立面図、構造図をパソコンの中に描き写すことにした。描き写すだけで、結構時間がかかる。あっという間に午後五時になってしまった。俺はとりあえず今日の図面作業に区切りをつけ中山ゴルフ練習場へ向う事にした。吉川さんとは午後五時半に待ち合わせをしている。
 練習場には未だ吉川さんは来ていなかった。その代わり、中山とゆかりさんが練習場のティーアップの所の椅子に腰掛け話をしていた。中山は俺の顔を確認すると手を振った。俺も中山に手を上げ、中山の隣に座っているゆかりさんに挨拶した。
「ゆかりさん、こんにちは。練習の方は進んでいますか?」
「こんにちは、加納さん」
彼女はにっこり微笑んで応答してくれた。実に魅力的な笑顔だ。彼女の顔を見ただけで、何となく力が漲ってくるような気がする。俺がゆかりさんの方ばかり見てにやにやしていると中山が話しかけてきた。
「おい、ところで昨日のゴルフコンペはどうだった?」
俺ははっと我に返り中山の方に目をやった。
「あー、ゴルフって難しいスポーツだな」
「そう言う所を見ると、あんまり良くなかったみたいだな。スコアはいくつだ?」
「アウト五十六、イン六十一のトータル百十七」
「それは打ちすぎだな。でも練習場だけで見た分には、そんなに叩くとは思わなかったけどな」
「ショットやパターは練習どおりで、そんなに悪くはなかったんだけど、一緒に回ったメンバーで最悪の人間がいてなー」
「それって誰だい?」
「橘建設の橘 憲明とかいう四十後半のおっちゃんだよ」
「知らないな。それで後の二人は?」
「久保田設備の久保田社長と、吉川商事の吉川専務」
「おー、純の事ならよく知っているよ。親父とは友達だからな」
中山は吉川さんの事を、「純」と呼んでいるらしい。
「えー、吉川さんの事をよく知っているんだ?今日練習をする為に、もうすぐここへ来るぞ」
「あーそうか。純も練習するなんて、珍しい事もあるもんだな」
「実は俺たち、これから真剣に練習してシングルになろうって昨日、約束したんだ」
「お前もえらい変わりようだな。でもゴルフを好きになってくれて俺としては嬉しいけどな。お前も真剣に練習をすれば、すぐにシングルになれるよ」
「加納さん、頑張ってくださいね」
ゆかりさんがそんな俺たちの会話に割って入ってそう言った。俺の顔が綻ぶ。どうもゆかりさんから話しかけられると顔がニヤついてしまう。