カートがクラブハウスに辿り着くと、俺たちは洗面所で手を洗い、二階のレストランに向った。橘さんだけが俺たちの後から着いてくる。テーブル席に着くと、ビールとつまみを皆一品ずつ注文した。俺たちが皆で乾杯を済ませ、しばらくすると銀行の営業マンが橘さんの所へ近づいてきた。俺の知らない営業マンだ。
「橘社長、今日のスコアはどうですか?」
「どうもこうも無いよ。君が度素人の人間を俺たちの組に入れてくれたおかげで、散々な結果だよ」
「スコアカード見ていいですか?」
黙っている。その営業マンはそれを了解したものと判断し、スコアカードを見た。
「五十ですか。橘社長にとっては悪かったですね」
「だから言っただろう。散々な結果だって」
「まあ、後半は頑張ってください。優勝候補の筆頭なんですから」
彼はそう言うと、機嫌が悪そうにしている橘さんの元を離れた。続いて橘さんの友達らしい年配の人が近づいて来た。
「おい、どうだった」
彼はそう言うと、スコアカードを手に取りスコアを見た。
「五十か。俺が四十三だから、二千百円の勝ちだな」
彼はそう言いながら、橘さんの顔を見てニヤニヤ笑った。橘さんは苦虫をかみ締め、俺の方を横目でチラッと見た。俺はそれに気づかない振りをして、吉川さんに話しかけた。
「吉川さん、吉川商事って具体的にどう言う仕事をしているんですか?」
「うちは、パチンコサービス業です・・あーそう言えば、加納さんは建築のデザインの仕事をしてるんですよね?今度、うちの大王店の方を改装しようと思っているんだけれど、改装工事なんかも図面描いてくれるんですかね?」
「勿論ですよ。今、暇にしているから、こちらこそ宜しくお願いしますよ」
「それじゃ、ゴルフ終わったら、うちの店に一緒に行きましょうか?」
「吉ちゃん、施工する時には、給排水設備工事はうちに頼むわよ」
思わぬ仕事の依頼が舞い込んだ。今日はゴルフは出来るし、仕事の依頼は来るし、最高の一日だ。ただどうも肌に合わない、橘さんの存在を抜きにして・・でも吉川さんも彼の事を余りよく思っていないのかもしれない。現に俺には仕事の話をしたが、橘さんには自分の隣に座っているにもかかわらず、一切仕事の話をしなかった。
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