俺の名前は、加納 竜也。年は三十歳。ゴルフのハンディーは十である。ゴルフの魅力に取り付かれて、二年になる。俺は設計事務所のデザイナーとしての肩書きを持つが、そんなに頻繁に仕事の依頼がある訳でもなく、仕事が無い時には、近所のゴルフ練習場か、県内のゴルフ場で芝刈りをしている事が多い。俺は大学の建築学部を卒業すると、東京都内に所在する建設会社へ就職した。その頃、世の中の景気が良かったせいもあって、建築学部の学生は、どこの建設会社でも引っ張りだこだった。俺は中堅クラスの建設会社を選択し、その会社へ入社すると、与えられた仕事は、ほどほどに一級建築士の資格を取る為に、必死になって勉強した。運良く二回目の挑戦で一級建築士の試験に合格した。別段、他の人間より頭が良かった訳ではないが、短期的に集中して勉強できる才能だけは持っていた。そのおかげで、一級建築士の試験には合格する事ができたが、俺の頭の中には、勉強した筈の建築の知識がほとんど残っていない。俺は一級建築士の試験に合格すると、すぐにその会社を辞めて自分の田舎へ帰った。どうも会社に縛られて、日々の生活を送るのが、俺の性分に合わないらしい。田舎に帰って、一級建築士の肩書きだけで食っていけると言うような甘い考えは毛頭持っていなかったが、俺には死んだ親父が残してくれた不動産が田舎にあった。二百坪ぐらいの土地にアパートを立て、そのアパートは全ての部屋が埋まっている。俺はその家賃収入だけで、食っていける身分だ。両親を早く失った替わりに、両親は俺に遺産を残してくれた。俺は田舎へ帰ると、ただぶらぶらと日々の生活を送っても仕方がないと思い、設計事務所の看板を掲げた。看板は掲げたものの、仕事はまったく無かった。仕事が無くても食ってはいけるので、さほど気にも留めていなかったのだが、ある出来事をきっかけに設計事務所としてもある程度、収入があるように努力をするようになった。 |