Creator’s World WEB連載
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第1回 第2回 第3回 第4回
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心の宝(5) 第1回

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「渡部さんといったかの。この地の人なんだろうか」
「いや、よそから来た人でね。妻が亡くなって一人きりになったもんだから、娘の嫁いでいるこの地に中古の家を買って引っ越してきたとかって聞いていますて。もう七十六とかで、ここへ来てからかなり経っているわけだけどの」
「そうかの。それにしても気の毒なことだったの」
「まったくですて、と言ったからとて、俺たちには何もしてやれないけど…」
「おっ、待った。今、吉田さんは何もしてやれないと言いなさったの」
「ああ、そう言いましたけど…」
功治の勢い込んだ言い様に吉田さんは怪訝そうな顔つきをした。
「それだよ。明日、三人でどうだろ?あの渡部さんとこの屋根をさ」
「雪掘りするってことかい?」
貞夫が確かめるかのように言った。
「そうだよ」
「そうですなあ。まだかなり掘り残してあるわけですから…それはいいところに気が付きましたがの」
「ウン、それは俺も賛成だ。あそこだったら積り具合からしても、三人でやればすぐ終わるよ」



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心の宝(5) 第2回

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「じゃあ、わしらがボランティアということで、明日雪掘りするからって言ってきますて、おう、これは渡部さんとしてはありがたいと思うに違いないですがの」
そう言うと吉田さんは急いで出て行った。
久恵はビールを持ってきて功治と貞夫のコップについでくれた。そして吉田さんが出て行ったわけを聞くと、こう言った。
「ああ、そんなボランティアをしてやれば娘さんは喜ぶよ。もっとも、もう五十代のばあちゃんだけどね。そして実はさ、娘さんの旦那というのが交通事故のために片足がなくなってるんさの。だっけ、渡部さんのほうで娘さんの家の雪掘りをしてやることもあったっていうんだがね」
「そうかい。それじゃあ、これはぜひともやってやるべきだな。誰かさんのとこの屋根とは違って、大して難しそうでもないし…」
「ウチはそんなに難しかった?」
「それはそうだよ。大の男が三人でやって五時間以上だよ。まあ、おかげで下のほうもきれいにしたし、屋根から転落なんてこともなくて無事に終わったよ。そしてこうして、うまいビールを飲んでマグロのとろに舌鼓を打つことができてるんだ。何よりじゃないか。」



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心の宝(5) 第3回

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「そうね。それにおらとしては今晩から安心して寝ることもできるんだしね」
「そう、それだよ。雪堀なんてそれが目的なんだから、お前さんにそう言ってもらえるってのは、それこそ俺たちとしては、雪掘り冥利に尽きると言ってもいいんじゃないかな」
「ああ、雪掘りは結局、住む人の身の安全を確かにして、雪による不安を除くことに眼目があるんだものな。まあ、久恵さんにそういってもらえれば、疲れもちょっぴり飛んでいくって感じだな」
貞夫もニコニコしながら言った。
しばらくして帰ってきた吉田さんは次のように言った。
「ああ、みんな忙しそうにしていたがね。渡部さんの娘さんにわしらの気持ちを伝えると喜んでくれてさの。皆さんに直接会ってよろしくお願いしたいということで、ここまで来るといったんですけどの。まあまあ、この忙しい中のこととて、わしのほうでよろしく話しておくからといってきましたて。まあ、そういうわけですので、ひとつよろしくお願いします」
「じゃあ、そういうことに決めるとして、明日は何時ころから?」
「今日と同じでいいよ。それで午前中には十分終わるから」
「そうですな。では、十時ですか」
「それでいいじゃないですか」



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心の宝(5) 第4回

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「俺たちはもう始めさせてもらっていたんだけど、さあ、吉田さん、一ついきましょう」
功治はビール瓶を手にして吉田さんのコップになみなみと注ぎ、貞夫のコップにも注ぐと声を大きくした。
「オーイ、久恵さんて、あんたもコップを持って来てや。乾杯しようて」
「なるほど、あれだけの雪を無事に片付けたんだものな。よしっ、これは乾杯の価値はあるぞ」
貞夫も納得してコップを手にした。久恵もまた台所から出てきて、みんなの準備が整うと功治は声を上げた。
「われわれの健康を願い、さらに人の背を超えて積っていた屋根の雪を無事に処理し終わって、住民の久恵さんに安心感を取り戻してあげることができたことを祝って、乾杯!」
「乾杯!」「乾杯!」という明るい声が続いた。
久恵は湯豆腐も熱燗も運んできた。
「ご馳走はもう十分ありすぎるほどだから、あんたももう座ってさ」
「はいはい、これ以上もう何も出ませんので」
そう言うと久恵も腰を下ろした。