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心の宝(4) 第1回

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実際に潰れ寸前とも思われる久恵の家を目の前にして、とにかくこの厳しい現実を回避することが先決だと思った。雪堀りはあくまでも久恵が無事・安穏に暮らして行くことができるための手段・手助けにとどまり、やはり、彼女の意向のように掘ってやるのが自分たちの役割なんだと思い直した。雪のことで誰よりも苦しんでいるのは久恵自身に違いなかった。
やがて吉田さんもやってきて、十時近くに三人は屋根へ出た。隣家でも雪掘りが始まっていた。主人なのであろう。赤いヤッケを身につけていたが、仕事のほうはまだ始めていくらも立っていないらしく、さして掘り進んでいなかった。
作業は予想を超えて難儀を極めた。雪が多すぎて二段掘り―百七十センチほどもある雪を、最初に上から半分くらいのところまでスノーダンプで掘り捨ててから、次にスコップで下半分の硬くしまっている部分の雪を掘り捨てる方式をとった。また、そうしなければ掘りにくくてどうしようもなかったに違いない。さらに屋根の前面の雪を後方へ捨てるには、前面の屋根の傾斜が除雪の邪魔になって苦しんだ。



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心の宝(4) 第2回

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午前中にかけて二段掘りの上部を片付け下部にも手をつけたところで、昼食にしようとして三人は気がついた。隣家の雪掘りがほとんど進んでいないのだった。吉田さんがヤッケの赤い端が雪の上にのぞいているのに気がついた。
「おっ、こりゃ、ことによると…」
そう言いながら彼は急いで梯子を降りると、カンジキをはいたまま隣家の方へ走っていった。
間もなく転落という事実がはっきりして救急車も大きな音を響かせながらやってきた。
功治と貞夫は久恵の用意してくれた寿司で昼食にした。重労働後のすきっ腹にはいくらでも入る感じだった。久恵の作ってくれたトン汁もよかった。彼女は彼女なりに二人に気遣いしてくれていた。二人がゆっくり休んで、さあ、これから―というところへ吉田さんがやってきた。



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心の宝(4) 第3回

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「いやあ、やっぱりわしらの気付くのが遅すぎましたて。渡部さんはあのまま逝ってしまったということだての。何しろ、転落して二時間近くも雪の中に埋もれていたわけですからの」
「そうかの。最悪になっちまったか。」
「あの人なんか、もう七十半ば過ぎというのに、雪堀りから道作りまで、よく頑張っていなさったがの」
「いや、やっぱりさ、雪の犠牲になるのは年寄りが多いよ。せめて二人で雪掘りしていたなら、助かった確率は大きかったんだけど」
「ああ、それは確かに言えるんだて。相棒がいればすぐに気がつくもんな」
昼休みのお茶を一杯飲むと、三人は武装して屋根へ出た。午後には三時間以上かけた三人の懸命な作業の結果、四時半ごろにようやく難儀続きの雪彫りは終わった。すでに日は落ちて薄暗がりになっていた。この日も雪は終日降り続き、掘り終わった後にはもういくらかの新雪が積っていた。



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心の宝(4) 第4回

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三人が屋根から下りて家の中へ入っていくと、久恵はとっくに座敷を暖めて酒の席を準備していた。
「ほんとにありがとうございました。おら、これで命が助かりましたて。本当にありがとうございました。ほれ、この通り、新年会の意味も含めてほんのちょっとばかりだけど、用意しておきましたんで。さあ、皆さんはお座りください。今、あったかいところをもってきますんで」
久恵としては愛の言う(心の宝)ということの意味が、ほんとに実感できた思いだった。その上でのありがとうという感謝の言葉だった。
「どうです、吉田さん。久恵さんがせっかく席を用意してくれたんだもん。ひとつ、よろしくご馳走になっていくことにしませんか」
このように功治が言うと、吉田さんも賛成し、貞夫も言った
「そうだな。せっかくの席だもん。ありがたく座らせてもらおうて」
座卓の上には、マグロやイカの刺身をはじめ、ぜんまいの煮付けやサラダ、トマト、ほうれん草などが並べられて、コップと猪口が用意されていた。貞夫のためには灰皿も出ていた。
貞夫は早速一服である。