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心の宝(2) 第1回

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夜になって、仲良しの愛に電話を入れた。こんな夜―ともすると、ミシッと天井のほうから小さな音が聞こえてきたりして、屋根の抜け落ちる不安におののく夜には、一人じっくり読書するといった気分にはなれなかった。話し相手がほしかった。
愛は小学生のころからのクラスメートである。彼女は利発でいつも年度末には学習賞をもらうのだった。二人の実家は同じ町内だったので、小中学校時代にはともに誘い合って通学し、遊びもした。卒業後もお互いに何でも相談し、話し合ってきた間柄である。久恵は雪掘り人夫を探すことができないことを愚痴った。
「…でね、その吉田さんっていう人は一人で掘るのは無理だから、せめてもう一人探してほしいって言うのよ」
「ウーン、で、その人夫探しの目当てがつかないって言うわけね」
「そう、その人夫が見つからないと、おらのとこなんてもう、いつ潰れてしまうやら分らないほど積もっているんだから、泣きたくなるがね。まったく」
「だけど、そんなんだったら簡単じゃない」
「カンタン?」
久恵は自分が一日中かけて苦しんできたことを愛が「カンタン」と言うのにはびっくりして、狐にでもつままれたような感じだった。
「そうよ。同級生の野郎っ子たちに目を向けるのよ」
「アッ、なるほど、同級生ね。それは良いかも…」
「そうよ。私たちがさ、七十代後半とか八十代とかになっていれば、そのころにはもう男子だって難しいだろうけどさ。私たち、まだ六十九よ。同級生の中にはまだまだ一人前の頑丈なのもいるわよ。雪堀ぐらいできてよ」



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心の宝(2) 第2回

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「同級生の男の子っていうのはいい思い付きね。さすがは愛ちゃんだわ」
「それほどでもないけど…小学生時代のクラスメートは心の宝だって言う人もいるのよ。こういう困ったときこそ心の宝の出番だがね。でなけりゃ、ただの知人でしかないことよ。すぐに誰かに目星をつけることね」
「そうだね、ありがとうさん、いくらか元気が出てきた感じ」
「そう、それはよかった」
久恵は愛に電話してみて本当に良かったと思った。友達の知恵を借りることのすばらしさを感じていた。ここにも「心の宝」はあったのだった。
受話器を置くとすぐに彼女は古ぼけた昔のアルバムを取り出してきた。すでに亡くなった者も七人ほどいるし、十日町から飛び出していってしまった者も多い。だが、男子の半数弱の者はこのふるさとの町に残っている。その中から久恵は功治に目をつけた。二人は同じ小学校区の端と端に住んでいるが、そんなことは問題でないと思った。
功治なら若いときから運送会社で力仕事に従事し、退職後もシルバー人材センターで力仕事をこなしていると聞く。雪掘りを頼むにはもってこいの男と思われた。久恵はすぐに功治の電話番号を調べると連絡した。



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心の宝(2) 第3回

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「…とにかく明日はダメだ、もう、予定が入っているんで。まあ、掘るとすれば明後日になるけどの…それにしても、おら一人だけじゃ都合が悪いがね。女衆のところへ一人で出かけていくなんてのは」
「どうして?」
「他の人になんと言われるか分からんし…」
「じゃあ、もう一人誰かに頼むからさ。それならいいでしょ」
「そうだね。それならまあ、昔いじめられた因縁もあるあんたのこった。むげに断ることもできない感じだね」
「また、そんな意地悪をいって。おら、功治さんをいじめたことなんてないよ」
「まあ、それはいいさ」
「じゃあ、功治さんの推薦する人は?」
「そうだね…貞夫が良いかな。大将だったら雪掘りなんてお手のもんだろうから」
「じゃあ、貞夫さんにもおらのほうから電話を入れて頼んでみるて」
「ああ、そうしてみて」
しばらくすると功治のところへ貞夫から電話がかかってきた。
「今さ、久恵さんから電話があって、あんたと一緒に雪掘りしてもらいたいってことだったて」



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心の宝(2) 第4回

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「ああ、俺、貞夫氏と一緒なら掘ってやってもいいかと思ってな」
「そういうことか。じゃあ、ここはひとつ奮発して掘ってやるか。それにしてもさ、やっぱり、一人暮らしの爺さん婆さんにとっては、雪掘りということは大きな負担なんだな」
「そうらしいよ。雪掘りボランティアの人数だって、去年の半分までも行かないらしいじゃないか。みんなが自分の家だけで手いっぱいなんだよ。何しろ、こんな急なすごい降りだもん、自分のとこの除雪だけで人々はもう疲れてしまって、よその家まで掘ってやる元気なんて出てこないさ」
「そうだろうな。だけど、こんな風に泣き付かれたこった。同級生でもあるしな。まあ、ボランティアのつもりで掘ってやることにしようじゃないか。こういったこともやっておけば、そのうちにはいいこともあるだろうて」
「そうだな。だけど、明後日でいいか」
「ああ、明後日、やや遅めに出かけていけばいいがな」