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第1回 第2回 第3回 第4回
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中越地震と一枚の絵手紙 第9回

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 彼女は毛布を持ってくると、私の脚にもかけてくれた。おかげでバスに避難していた一夜というもの、さしたる寒さも覚えないまま過ごすことができた。
  タバコが恋しくなると、バスの外へ出ていって一服した。もっとも、ここのところ、年々タバコに対する世の風当りは強くなっている。バスに乗っている十人中、タバコを吸うのは前の家の主人、明さんと私だけである。
  明さんの実家は群馬の、雪とはあまり縁のないところらしい。ほれ込んだ妻のトミさんが一人っ子だったこともあって、聟入りして、ここ、トミさんの実家の近くに家を持って商売をしている。したがって、トミさんの実家も同じ集落にあるが、年老いた両親が二人きりで暮らしている。何らかの異変が考えられるときには、彼女はすぐさま実家へ駆けつけることにしているようだ。このときもトミさんは実家へ行っていて、私たちの世話になっているバスには乗っていなかった。



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中越地震と一枚の絵手紙 第10回

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 その夜には遠くに弱くまたたく星が二つ三つ見えていた。月は雲に隠れていたようだ。近くの弁財社の森が暗闇の中に大きく浮かびあがって、タバコを吸っている明さんと私の方へ覆いかぶさってくるような圧迫感があった。タバコの吸殻を靴でもみ消すと、急いでバスに戻った。
 八時ごろであろうか。何やら拡声器による叫び声が聞こえる。耳を澄ますと、
「断水!」
 と言っている。(断水は困る。だが待て、いまの中ならいくらかでも水道水を確保できるのではないか。そうだ、やってみろ)――そう考えると私はすぐに動いた。自宅の乾電池の置き場所はわかっている。手探りでそれを手にすると台所へ直行した。ウーロン茶の空のペットボトルを探して水道の栓をひねった。水の出方は弱かったが、それでもどうやら二リットルだけとることができた。



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中越地震と一枚の絵手紙 第11回

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 余震は次々と襲ってくる。いつ止むものやらと思う。うたた寝をするいとまもない。バスの中の人たちが疲れるだろうと思って、疲労回復用健康飲料を持っていったりする。牛乳を持ってきた人もいたし、水を持ってきた人もいた。
 余震の襲来にも慣れたので、私は乾電池を手にして自宅の中を一通り見てまわった。家屋自体は建築三年目ということもあろう、ほとんど傷を受けていない。それだけでも随分ありがたい。この時点ではまだ情報としては、「ひどく大きい地震だった」という程度で、震度、震源地、各地の被害の大きさなど、詳しいことは何もわかっていなかった。
 家屋はともかく、家具は方々に倒れたり、とび散ったりしている。階下では石油タンクが壁に倒れかかっていて、灯油がダラダラと垂れ流れている。



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中越地震と一枚の絵手紙 第12回

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 一階の車庫の最も奥の空間に、フロ用ボイラーと並んで融雪用ボイラーが設置してある。壁をはさんで石油タンクが二基――二百リットル入り、四百リットル入り――置いてある。それらの中、窓際にある小さい方のタンクが四十五度くらいに傾いて、壁に寄りかかる状態になっていた。上部から灯油がセメントの床に絶えまなく、だらだらと垂れ流しになっている。あの石油独特の臭気がツーンと鼻をつく。すぐにバスに乗って人たちに助けを求めた。しかし、作業することのできる場はごく狭い。一人が真ん中にくると、両側の二人はせいぜい片手で石油タンクにさわることができるだけである。その他の二人は作業の様子を見ている。石油は満タンに近かったらしく、いくら力をいれて起こそうとしても、タンクは全く動かない。すぐに自分たちのやり方ではどうにもならないことがわかって、諦めてしまった。
「おいっ、こりゃ、石油会社へ連絡して何とかしてもらうよりどうしようもないな」
「そうだよ。こんなに重いんではどうにもならんからな」
「そうだな、そうしよう。いや、みんなの衆には申しわけなかった。どうもありがとうございました」
 私はできるだけ早く石油会社へ連絡しようと思った。