江戸の人は偉いもの
1〜20までは 江戸の小町には 絶対に許されないしぐさだったそうですが、これには
お聞きしてみると、みんな明確な理由があるのね。
例えば、9〜10の鼻をいじる娘を嫁にすると「一族みんなカゼを引く」といって一番いやがられたそうです。
これは現代的に解釈すると、食事をとりしきっている奥さんが もしカゼをひいてしまったときなど、鼻をいじるクセの
ある人だと ウィルスが食べ物やコップなどにベタベタくっついて、それを食べたり飲んだり 口に触れた家族が みんなうつってしまうことでしょう。
芝先生が20年ほどまえに調査されたところではそれは現在でも通用するそうです。
家族が一人カゼをひき、子どもがつぎつぎ寝こんでしまったという若い奥さんには ふだん見ているとみんな鼻をいじるクセ(しぐさ)があるそうです。
電車の中で見かけるしぐさ
電車・バスそのほか乗り物のなかで見かけるシグサには 江戸しぐさもあれば おかしなのもありますが、
このごろは おかしいほうが多くなりました。
そういって先生は こぼされます。
1 におうだち
押されても がんとして動かない。わざと押すのでなければ、ひとの流れにムリに逆らわず多少 前後左右に動く。
2 またひらき
股開。これは別に ひわいな意味もあるようですが、この場合には「渡し船に股開をして」というセリフのように股を開いて座るシグサ。理由は
ちゃんとあるようですが、これは一つ考えてみてくださいね。
3 ひとりじめ
独占。混み合ってきたら なんとか くめんしたいものですね。でも「子どもだから立っておきなさい!」というのは子どもの領分を侵すことだそうです。
それよりも一たんは座らせておき 老人や病人が目のまえに現れたら「どうぞ ここに」と言って席を譲るシグサを身につけさせるほうがスマートですね。
4 わがものがお
我物顔。この場合は端唄や歌沢の「わがもの」ではなくて「わがもの顔」に座席を占領している人のシグサ。
5 たちはだかり
立開。たちはだかると読むそうです。
6 うでくみ
腕組。乗りもののなかでの腕組は二つの理由でいけないそうです。1、腕を組んでは電車の急停止など危険に対処できにくい。2、両隣のじゃまになる。
7 せっぱつまり
切羽詰。これには実にさまざまなシグサがあるようですが、ここでは「駆け込み乗車」のことです。江戸でカケコミというと別の意味になるそうで、現在の「かけこみ乗車は危険ですから
おやめください」の「かけこみ」は切羽詰りにあたるそうです。
現在では かけこみは危険という第一理由でしないのが望ましいのですが、江戸では自己敗退を意味するので縁起の悪いシグサといわれていたそうです。
いまでも中年の人が かけこんでるのは みじめったらしいですよね。
8 むりおし
無理押。武家社会でいう「むりおし」とは意味は違い この場合は 前を歩いている人の背中を手のひらや指で押すことのようです。これはたいへん失礼なこととされていたそうです。
改札口でみかけますね。階段などでは とても危険ですわね。
9 田舎の入り・江戸の出
おもしろいことに200年たっても この諺は通用するようです。いまふうに言えば、田舎の人は電車に乗るときに急ぎ、江戸の人は乗り物から降りたときに急ぐということのようです。
芝先生のお話によると、電車にのるときに あわてて走り出すのは いわゆる田舎しぐさの人で、そういう人は電車が目的の駅について ドアが開くと、乗るときとは逆に こんどは のんびり
と歩きだすそうです。
江戸しぐさの人は反対で、乗るときは ゆうゆうと乗り、駅に着くと急ぎ足で出て行くそうです。
これだけ見るだけで、99%まで判断できるそうで、スリは こういうシグサで「ぽっと出」とか「おのぼりさん」と見わけるようだということです。もしもスリ大学なんてものがあるとしたら、こんなことを教えているのかしら?
そういうこともあって芝先生は本にするのが いやなんですって。悪用されると困るから。
10 こしうかし
腰浮。いまは「ちょっと座らせてください」というと シブシブ座らせてもらえます。
それでも「しらん顔のはんぺいさん」も大勢いらっしゃいますわね。
江戸しぐさでは ドアが開いて人が乗ってきたら 「さ、ここにおかけなさい!」といわんばかりに ちょっと腰を浮かせて 相手を招待するしぐさをそういうよです。
私が女性ですから言うわけではありませんが、昔の東京には江戸しぐさのイキなダンナが生きていて 顔色のさえない(生理の日や病みあがりなどにムリをして出かける)女性を見つけると
年齢が逆なのに席を譲る老人もいらっしゃったそうです。
そりゃ、若者だってOLだって元気のないひともいますものね。いちがいに「若い者は立ってろ」というのは 野暮天のすることだそうよ。 |