銅版画に取り組みだしたのはNさんからエッチングプレス機を借り受けてからだった。随分以前のことになる。簡単な技法の説明書を読みながら、銅版や亜鉛版を希硝酸で腐食させて線や面の陰影を作り出し、そこにインクを詰めてプレス機で紙に刷る。作業の雰囲気がどこか芸術的でなく、秘密の金属工場みたいでそれが気に入っていた。金属面への描画は定規やコンパスを利用して直線や円や曲線を引いた。まれにフリーハンドを用いたが、出来るだけ無機的な画面創りにこだわったつもりだった。しかし、その意図に反し、出来上がった作品はおよそ人の手による壁の落書きのようになった。暗澹とした気持ちで、冷たい金属面と格闘したのはほんの僅かの期間だった。 |
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「ラ・フランス頌」から
「夏の初めに このテーブルに ラ・フランス」 |
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