山岡の笑い声につられるように、俊彦もははは、と笑った。そして笑いながら、あらためて山岡に感謝していた。自分は後先を考えずに、依子と話してそこから先は成り行きだ、などと思っていたのが恥ずかしかった。自分の家族だけでなく、依子の夫や、理恵ら友人たちも巻き込んでしまうところだったのだ。俊彦はこの時、本当に心から依子の幸せを願っていた。 本を読む理恵と向かい合いながら、俊彦は、俺はバカだ、と思った。だが同時に、そんなバカな自分を心配してくれる人間がいることを、ありがたいと思っていた。「ねえ、松平さん。」俊彦は理恵に声をかけた。「なあに、原田君。」理恵は本から目を離さずに答える。「松平さんは、結婚してよかったと思ったことはある?」「ええ?何、いきなりどうしたの?」理恵はびっくりして俊彦の顔を見た。「いや何となく、どうなのかなと思ってさ。」 あらためて俊彦の顔をじっと見ると、理恵は言った。「そうねえ、最近はそう思うようになったかな。あたしは男性から見たらすごく扱いづらいと思うから、そんなあたしと一緒にいてくれるダンナには感謝してる。原田君はどうなの?」「俺?いや、俺は、結婚してよかったと思ったことはないなあ。なんで結婚したんだろう、って思うばっかりで。」「そうなんだ。でも、この人でよかったって思える瞬間はあるはずよ。普段気づいていないだけなんじゃない?」「そうかもしれないな。何せ俺、家のことも、子供のことも任せっぱなしだから。」 「あら、それはよくないわね。あなたも家族の一員なんだから、少しは関わったほうがいいわよ。」「家族の一員、そうだよね。なんだか俺以外が家族で俺は家族じゃないみたいな気がしてたよ。」「まあひどい。そんなこと言ったら、奥さん泣いちゃうわよ。」「泣いちゃうか、そりゃまずいな、ははは。」
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