「さて、俺たちもそろそろ失礼するか。」俊彦が戻ると、小西は誰にいうともなく言った。「なんだよ、来たばかりじゃないか。それに、池田たちはどうするんだ?」「なに?俺たちがどうしたって?」声の主は池田だった。カウンターで眠りこけていた池田も目を覚ましたのだった。「そういうこと。」小西は俊彦の肩をポンとたたくと、「マスター、ごちそうさま。会社のやつらにも宣伝しとくよ。」と言って店の外へ出た。俊彦と一緒に戻った山岡も、「じゃあ俺も失礼するか。」と店を出る。次々に旧友たちが出て行く中、俊彦は理恵がまだ店内に残っているのを見つけ、とりあえずコーヒーをもう一杯、理恵と一緒に飲むことにした。
「松平さん、ここ、いいかな。」「ああ、どうぞ、原田君。」と言ってまた読みかけの本に目を落とす。その様子を見ながら、俊彦は「散歩」に出かけて山岡と話したことを思い出していた。
二人は喫茶店から少し歩いたところにある、小さな公園のベンチに腰掛けた。公園といっても単にその一角が区切られていて、ベンチがいくつかと、ブランコらしきものがあるだけだ。日曜の昼下がりという時間のせいか、ベンチにもブランコにも、子供の姿はなかった。 「懐かしいな、お前と二人でこうして話すなんて。」山岡はしみじみと言った。「小西から聞いたんだろう?」突然の質問に俊彦は面食らって「え?」と聞き返した。「俺が川端さんに告白したってこと。」「ああ、うん。聞いた。」「俺のこと嫌な奴だと思っただろう。」「まあ、いい奴と思わなかったのは確かだな。」「そうか。俊彦らしいな。」フッと笑うと、山岡はタバコに火をつけた。一度吸い込んだ後、ふーっと煙を吐き出す。「俺は、ずっと川端さんが好きだった。卒業してからもずっと。でも、そんな俺にも他に好きな女がいた。」「川端さんのほかに、か。」「ああ。」
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