人の波は絶えることがなく、参加者が次々に訪れる。昨日までは大勢来てくださるかしら、なんて心配していたけど、杞憂に終わってよかったわ。依子はそんなことを考えながら、同期生から会費を受け取っていく。
「次にお並びの方、どうぞ。」現れたのは俊彦だった。依子は一瞬凍りついたようになったが、すぐに笑顔を見せた。「お久しぶり。」「やあ、久しぶり。さっきは困ってたようだけど大丈夫?」「え、ええ。理恵に助けてもらったから大丈夫。」「そうか。ならよかった。」「心配かけてごめんなさい。」「いや、いいんだよ。」名札に名前を書き込むと、俊彦は依子にマジックを返した。「それじゃあ。」「ええ。」俊彦は名残り惜しそうに依子の顔を見ていたが、隣で受付を済ませた小西に促されて会場に入っていった。その後ろ姿を見送る依子だったが、理恵に「次の方お願い。」といわれて我に返り、受付の仕事に戻る。「当日参加の方ですね。こちらへどうぞ。」
俊彦はたった今通り過ぎたばかりの受付を振り返った。依子はすでに受付の顔に戻っている。でもあの笑顔は、俺だけに見せたんだよな―。依子の微笑を思い出し、ひとりごちた。「なんだ、お前らもう来てたのか!」小西の声で向き直ると、懐かしい面々が俊彦を取り囲んでいた。「おお、久しぶりだなあ!みんな元気だったか?」
「これより卒業15周年記念のパーティーを始めます。」会場内では「乾杯」の声があちこちから聞こえていた。だが理恵と依子はまだ受付にいた。人の波が途切れた時、理恵は依子に尋ねた。「さっき原田くんと何を話していたの?」「別に。ただ、さっきは大丈夫だったかって。ほら、理恵が助け舟だしてくれた人のこと。」「ああ、あの人ね。それでなんて言ったの?」
「理恵に助けてもらったから大丈夫って言って、心配かけてごめんなさいって。」「そう。」
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