そういえば卒業間際に川端さんに告白すると言ったら、山岡はがんばれ、って言ってくれたんだっけか。駄目だったよと言いに行ったら、小西も一緒で、まあ気にするな、という口ぶりだったが、よく考えたら変な話だよな。まるで俺が失敗することが分かっていたみたいだ。いやしかし、いくらなんでも予知能力をあいつらが持っているわけはない。考えすぎだな―。
俊彦は電車に乗り込み、ドアに近い座席に腰をおろした。大学のある駅までは5駅ほどで決して遠いわけではないが、最近は短い距離でもやけに座りたくなる。学生時代は実家から1時間半かけて通っていたが、行きも帰りもほとんど座ったことがなかった。俺も年だな。俊彦はあらためてそう思った。
電車を降りて懐かしいキャンパスのほうへ歩いていくと、途中で小西に会った。「よう、トシちゃん、元気そうじゃないか。」俊彦は内心、この年になってトシちゃんはやめてくれよ、と思ったが、気にしない素振りで、「お前も元気そうだな。」と返した。「なあ、知ってるか?山岡が準備委員をやってるんだが、今日ステージに上がって花束を受け取るのは川端さんらしいぞ。なんでも急に決まったらしい。午前中はダメという話だったんだが、ご主人が案外早く仕事に出かけて、来られるようになったそうだ。」
川端さん、という名前を聞いて、俊彦は胸がざわめくのを感じた。つとめて冷静に「そうか」と言ったが、口から出た声を聞いてパニックしそうになった。なんで俺はこんなに声が裏返ってるんだ!?しかし小西は話に夢中で気づいていないらしい。俊彦はなるべく音を立てないように、2、3回深呼吸をした。
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