「お父さんの悪口言わないで!」剛一は食ってかかるように言った。「悪口なんて―」「悪口じゃないか!僕はただサッカーがしたいだけなのに、それがなんでそんなにいけないことなんだよ!?」語気を荒げる剛一に、ミチルは何も言えなかった。その時、玄関のチャイムが鳴った。「卓磨くんだ!サッカーしに行ってくる。」と言うと、Tシャツの袖で涙をぬぐいながら、剛一は出て行った。ミチルは後ろから「夕ご飯までには帰るのよ!」と叫んだが、返事はなかった。 すべて話し終えたミチルは、大きくため息をついた。俊彦は何かを考えていたが、しばらくして口を開いた。「剛一の好きにさせてやったらどうかな。」「でもあなた、私立に行かせるのはあなたも賛成したじゃない。」「確かに俺も賛成したが、本人が行きたがれば、の話だ。行きたくないんなら、無理に行かせることもないだろう。高校から受けられる私立だってあるし。」「それはそうですけど・・・」 「親として俺たちにできるのは、剛一が一人で生きていけるようにすることだ。そうだろう?」「え、ええ。」「剛一は、ミチルに逆らった。これはとても勇気の要ることだ。それまではい、はい、と言うことを聞いてきたのに、急に反抗する。だが実は急じゃない。本人の中では十分に考え抜かれたことなんだ。大人の俺たちから見たら穴だらけで、とても考え抜いたとは言えないが、剛一は大人への一歩を踏み出したんだよ。」 俊彦はお茶をひと口飲むと、さらに続けた。「それを祝福する意味でも、好きなようにさせてやろうじゃないか。行きたくもない私立に行くより、公立の中学に行って勉強もサッカーも両立させろ、って言うほうが、よっぽど剛一のためになるんじゃないかな。途中で投げ出したり、怠けたりしたら叱ればいい。そうやって最後までやり遂げさせる方が、一人で生きていくのに役立つと思うぞ。」
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