そういえば、あの頃思いを寄せていた女の子は今どうしているだろうか。その子はミチルとは正反対で、とても物静かで、清楚な印象だった。およそ他人の噂話とは縁がないように思えた。確か名前は、そう、川端依子だ。卒業を前に思い切って告白したら、少し当惑したように、田舎に帰って親の決めた相手と結婚するんだと言っていた。
あとから聞いた話では、その相手というのは15歳も年上だということだった。そんなオヤジのどこがいいんだ、とそのときは思ったが、気がつけば自分もそのオヤジと同じ年になっている。今の自分が15歳年下の女の子と結婚すると考えてみると、俊彦はまんざらでもない気がするのだった。
川端依子は故郷に戻って親の決めた相手と結婚、今年で15年目になる。15歳も年が離れているせいか、会話はあまりない。結婚当初はそんなものかと思っていたが、幼なじみの松平理恵が結婚し、その生活について聞かされるにつれ、そうではないことが分かった。理恵の夫は、理恵に言わせればとても口うるさく、家事一切に口を出す。共働きだが家事はもっぱら理恵の仕事だ。口は出すものの何もやらない夫に対し、それならあなたがやればいいじゃない、って、言ってやったわよ!と言いながら、でも本当に彼が家事全般こなすようになったら、それはそれで嫌なのよね、女心は複雑だわ、などと言って依子を笑わせる。
笑いながらも依子は、理恵夫婦を羨ましいと思っていた。自分にはとても、夫に自分の欝憤をぶつけるなんてできないし、ましてや喧嘩なんて、もっての外。一方で、心のどこかではそういう関係になりたいとも思っていたが、夫にそれを求めるのは酷ではないだろうか、という考えも頭をかすめる。誰か別の相手とでなければ、そういう関係にはなれないのだろうか、と依子は思い始めていた。 |