「謙司のは、空手?」
「ああ」
「空手があんなに強いなんて思わなかった」
京子の言葉は挑発的ともとれたが、それは意趣返しのつもりではなく、心底そう思っているらしい。
「あたしさ、去年高校入った時、学校の空手部の主将って奴とタイマン張ったの」
京子は、少し真顔になっている。
「それで?」
「一発よ。そいつ、県大会で準優勝したくらいなのよ。その時から、空手なんて大したことないってずっと思ってた」
そう言う彼女の表情が僅かに曇っていた。空手に事寄せて、何か別のことを考えているように見える。
「空手にもいろいろあるさ」
高校の空手部ということは、伝統的な五大流派のどれかに違いない。「ダンス空手」などと揶揄される型重視派の空手では、京子には歯が立たないのも当然だ−謙司はそう思っていた。進元流か、せめて極武館流の空手でなければ、彼女を制することはまず難しいだろう。
十七才の少女がそれだけの実力を持つということが、彼にとってはとにかく驚きだった。
「ねえ、近道しない?」
京子はやにわに立ち止まると、目を輝かせて謙司のほうを向いた。
「近道ったって、もうじきだろうが」
「いいから!ここよ」
言いながら京子は、傍らの藪を指差した。
「ここって…、お前どうする気だよ」
藪は、身の丈よりも高く生い茂っている。京子は例の短剣を抜くと、当惑している謙司を尻目に藪に突入した。
彼はつられるように彼女の後を追う。
京子は、見事な刀捌きで藪を右に左に切り払いながら、ずんずん進んで行く。足元に気をつけながら覚束ない足取りで付いて行く謙司よりも、障害を排除しながら前進する京子のほうが数段速く、彼は置いてきぼりを喰いそうになった。
「おい!」
謙司は堪らずに叫んだ。
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