飛び石にされた浩二は、その芋虫をつまみ上げると、道代の鼻先へ突き出した。
「いやん、もう!やめてよ!」
道代は謙司にしがみ付いたままで、反対側へ逃げた。
「こりゃいいや、芋虫が取り持つ縁ってね!」
「どうだ゛我輩″、気分いいだろ!」
その時謙司が、芋虫をつまんでいる浩二の右手首を掴んだ。
「やめろ。無駄なことだ」
彼の口調は、穏やかだが断固としていた。それは浩二と洋平より、むしろ道代に向けての言葉だった。
浩二は、ふいに真顔になって芋虫を草むらに放り捨て、両手を腰に当てて謙司に向き直った。どうやら本当に怒っているらしい。
「おい゛我輩″、ちょっと不粋が過ぎやしねえか?」
「そうだよ、道代の気持ちが分からねえのか?冷血動物かよ、お前!」
洋平が、浩二の後を受けて謙司に詰め寄る。
「要らん世話を焼くな!!」
謙司は有無を言わせず言い放った。凄まじい気迫だった。その気勢に怯んだのか、浩二と洋平は、謙司にガンを飛ばすような目付きのまま押し黙ってしまった。
謙司は、彼にしがみ付いたまま凍り付いたようになっている道代のほうへ向き直った。ぎこちない微笑を浮かべながら彼女の両肘に手を宛てがい、そっと押しやって彼から離した。精一杯優しくしたつもりだ。
(これで、俺の気持ちを分かってくれれば…) |