「お前ら口出しするな。関係ねえだろ」
それでなくても道代の視線が気になる謙司は当惑気味に言ったが、浩二と洋平に対しては暖簾に腕押しだった。
「脈がありそうに見えるぜ」
「ヘッヘッヘッヘッ!」
旅行中、ずっとこの調子で責め立てられるに違いない。おまけに、道代のアタックをどうかわしたものか。謙司は、旅行の日程が三泊四日もあることを思い出して頭が痛くなった。
『奥安妻』号は、ブレ−キ音を軋ませながら、月影駅の野ざらしのホ−ムに滑り込んだ。他に乗降客のほとんどいないホ−ム上に華やかな若者の一団が降り立って、どやどやと改札口へ向かった。『奥安妻』は、のどかなディ−ゼル音を残してゆっくりと走り去って行く。
平野部に比べればさすがにいくらか気温は低いが、それでも真昼近くの夏の太陽が照り付けて相当な暑さだ。蝉の声が、辺りに迫る山並みから津波のように押し寄せて、彼らを呑み込んでいた。
「山の中は涼しいだァ?後悔すんのはお前だろ」
「夏だよ、夏!」
浩二と洋平が、皮肉を並べ立てて謙司を置き去りにした。
古びた木造駅舎の改札口を通って駅前広場に出ると、その中程にバス停があった。もうじき夏祭りなのか、電柱や街路灯には、数珠繋ぎの祭提灯が飾られていた。
広場の周囲は、食堂やらタクシ−会社の車庫やらが取り囲み、その先から線路に平行するように延びる未舗装の道路に沿って、埃と雨を浴び続けて白茶くなった民家や商店が並んでいる。駅舎の先にある貨物の積み降ろし場には、うず高く積まれた枕木に雑草が生え、その傍に錆びたコンテナが放置されていた。
一行が乗車するバスは、既にバス停に横付けされている。彼らが一まとまりになって人数を点検している時、駅舎の先につくねんとした様子でいる一人の若い女を、浩二が目に留めた。
「おい、あれ…」
彼は女のほうを見たまま、傍の洋平にささやきかけた。 |