「これ、持ってるね」
京子はうきうきした口調で言いながら、謙司の手から綿飴を取って少し離れたところに立った。若者の一団と謙司の双方を、彼女は面白そうに見比べている。
眉を八の字に寄せてこわい顔をしているハッピ姿の子分達が、肩をぶつけんばかりにして謙司を取り囲んだ。
「おうお、京子のイロだってえからどんな奴かと思やあ、綿飴より生ッ白いぜ」
「ナメナメしてやろうか、坊や」
「京子、おめえこいつを家来か奴隷にしたんだろう」
「ムチの跡でもついてねえか?」
「素っ裸にひん剥いて調べてやろうぜ」
「ついでにキンタマが付いてるかどうかもよ」
「ガッハッハッハ!」
自分達には手の届かない女だと分かっていても、京子が美しく悩ましいことには変わりがない。それをこともあろうに見ず知らずの他所者に盗られたとあっては、彼らの腹の虫が収まらないのも無理はなかった。
「笑わせるぞ」
謙司は重い口を開いた。
「十才の子供のほうがよっぽど強そうだな」
子分達が、たちまち色をなして謙司に掴み掛かろうとする。
「ナンだ、テメェ!」
「ナメンなよ、オラ!」
真っ先に胸ぐらを掴もうとしたノッポを、謙司はぎらりと睨んだ。もともと虫の居所がよくない彼のうちでたぎり返ったものがあっという間に周囲を覆い尽くして、そのノッポばかりか他の数人までもがその場に立ちすくんでしまった。
眼光一つで子分達を黙らせた謙司を見て、進吾は得心がいく思いがした。只のネズミではなかろうと思っていたが、その通りらしい。
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