今日の別れ際、京子はいそいそと申し出た。
「ねえ、今夜祭行こうよ」
「行きたいのはヤマヤマなんだが…」
「え?…」
「今夜、他の旅行のメンバ−と全員で行く予定なんだ。団体行動だし、あまり勝手ばかりやるわけにも…」
「そう…」
京子は心から落胆したように、一旦うつむいてから少しうらめしげに謙司を見上げた。自分の気持ちを包み隠さず、全身で表現する娘だった。
彼女はじきに気を取り直した。
「たまには団体行動の練習もしとかなきゃね」
殊更に元気そうな足取りで立ち去って行く彼女の後ろ姿を思い出しながら、謙司こそがうらめしい気持ちで一杯だった。京子が垣間見せた失望の表情を、思い出すだけで辛い。
「やい、お前らッ!」
謙司はいきなり振り向いて一喝した。六人はギクリとして、雷に打たれたように立ち止まった。
「黙って聞いてりゃいい気になりやがって。用心棒でもポ−タ−でもやってやるが、俺は安くないぞ。お前らの女三人、今夜だけ俺に貸すなら引き受けてもいいぜ」
謙司が最後まで言い終わらぬうちに、六人はぽかんとした顔になった。彼らの視線は、謙司越しにその背後まで延びている。
道代が含み笑いしながら、顎をしゃくってその方向を指し示した。
「なにい?」
謙司が振り返って見ると、行く手に人影がひとつ近づいて来るのが見える。
祭仕度を整えたその女が京子であると気付いて、謙司は目を見張った。彼女は他の六人を歯牙にもかけずに迫って来るなり、謙司の左手をひっ掴んで後も見ずに彼を引っ張って行った。
呆気に取られる六人を残して、二人は小走りに見る見る遠ざかって行く。
「見た?あれよ」
道代が呆れ顔で言った。
「なるほどな…、ボケの望月には似合いのタマだぜ」
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