問題は「七回の勝ち」の内容であった。それらはいずれも、蹴りを得意とする京子の間合を封じて接近戦に持ち込み、体力でなんとか押し切るというもので、突きや蹴りをクリ−ンヒットさせる勝ち方は少なかった。
それに対して三回の負けは、ほとんど接近戦の間合を掴むことも出来ずに、京子の連続蹴りに翻弄される負け方である。
進吾よりも一廻り小さい体格ながら、京子の蹴りの破壊力は進吾のそれと大差ないほどで、スピ−ドなら京子が上であった。それにもまして、彼女の激しい気勢にたじたじとなってしまうことも手伝って、彼女の蹴りをかわし切れずにまともに喰らい、ぶざまに尻から飛ばされたり、膝を落としたりすることが少なくなかった。
自分得意の体勢でならブッ飛ばせるという自信があるためか、京子は進吾を「自分より強い」とは認めていない様子であった。
京子にしてみれば、進吾に関心を示さなかったのは、単にタイプではなかったからに過ぎない。
奔放な性格で、勝手気ままに振る舞いたい京子にとって、進吾のような男が相手では具合が悪い。むしろ、どちらかといえば大人しい男が性に合っている。それでいて、自分よりも強い男でなければイヤというわけであった。
京子が、自分に気がないことは分かっている。
だが、このままトンビに油揚げをさらわれて、おめおめと引き下がってしまうのは進吾の流儀ではない。
京子が惚れたほどの男なら、よほどの゛剛の者″にちがいない。ひとつ、この俺がそいつの腕を検分してやろうじゃないか。勝ち負けは問題ではなく、自分の心にすっきりとけじめをつけたい。直情径行といえばそれまでだが、それが俺のやり方だ−そう思いながら進吾は、再び『月乃錦』を一息にあおった。
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