「昨日よりずっといいよ」
約束の時間よりも少し早めに川原へ来た謙司は、既に来ていた京子を一目見るなり言った。
彼女は相変わらず山賊の娘のような格好だったが、上着だけが違っていた。鼠色の長袖はさすがにやめて、緋色のノ−スリ−ブ状のものを着ている。
暑苦しいサラシを巻いていないらしい胸のふくらみがなかなか大きい上に、剥き出しの両の二の腕が謙司の目に眩しい。唇の赤さが昨日より際立っているところを見ると、薄く紅を差しているようだ。
短剣を今日も腰に差していたが、これは山の中で行動する際には必需品なのであろう。
「これさ、本当は包丁なの」
「嫁入り道具か?」
「包丁捌きはなかなかのもんなんだから」
「お手並み拝見といきたいね」
「後でじっくり見せるよ」
昨日取っ組み合いを演じたその川原から、二人は谷川を遡行した。
朝霧はすっかり晴れていて、空には雲一つない。昨日に輪をかけて暑くなりそうだ。辺りを覆う蝉の大スコ−ルで耳鳴りがするほどだ。
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